2月6日
オンシジウム
― 清楚 ―
清楚なる君は、深窓の姫君。
そして、手の届かないと思いつつも大切な女(ヒト)。
「絳攸兄上。」
「来夏様!」
「まぁ、絳攸兄上。妹に様なんて駄目ですよ。」
「あ。あぁ…すみません。」
「さぁ、もう一度。」
「来夏…。」
「よくできました。」
ニコリと絳攸に笑い掛ける。
その笑みだって、私に向いてほしいと言うのに、それさえも叶わない。
「それより、何故こちらへ?」
「あぁ、黎深叔父上に饅頭を持って来いといわれまして…。」
差し入れです。とニコリと笑いながら包みを差し出した。
それもこれも全て絳攸に向けてで、自分にではなくて、何故か悔しくなって百戦錬磨と言われている自分から彼女に声を掛けてしまう。
「来夏殿もいっしょにお茶でも如何ですか?」
「楸瑛!」
「そうなのだ。」
「まぁ、いいんですか?ありがとうございます。」
今度はこちらを見てニコリと笑い掛ける。それは、自分だけでなく口を挟んだ主上にも向けてだが、その瞳に自分が写ったことを喜んでしまう。
「私が淹れますわね。」
「いえ、私がしますよ。」
「いいんです。私がしたいんです。」
そう言うと楸瑛の手から急須を取り、お茶を注いでいた。包みを開き美味しそうな饅頭に釘付けの上司に「あぁ、そうですね。」「本当に美味しそうです。」と相づちを打ちつつ、彼女をひたすらに見ていた。行動の一つ一つが眩しくって、瞼の奥に焼き付けように見つめていた。
その後は、彼女の淹れてくれたお茶と(いつもより数段に美味しかった)差し入れの饅頭を食べ(甘さ控えめで仄かに桜の香りがした)楽しく談笑して過ごした。
帰りますね。と言った彼女を送ろうと席を立つと絳攸に睨まれてしまったが、短い時間でも彼女と二人きりと言うことを考えればそんなことは些細なことだった。
「ありがとうございます。」
「気にしないでください。」
「でも、お仕事あったのでしょう?」
「まぁ・・・。」
言葉を濁すと彼女は何か察したのかクスクスと笑った。
「絳攸兄上はああ言う人ですから…。」
「もう長年付き合ってるからわかっているよ。」
「そう言ってくださると気が楽になります。」
「腐れ縁ですから。」
「えぇ、楸瑛様が兄上の腐れ縁で良かったです。」
「…なぜですか?」
「出なければ、兄上はあんな風に起こり散らすことも出来ませんでした。」
「あぁ。」
「それに…私は楸瑛様に会うことすら出来ませんでしたから。」
それでは。と言い逃げるように去っていった彼女を見送りながら思考は止まっていた。
『私は楸瑛様に会うことすら出来ませんでしたから。』と言う言葉の意味を考えてしまう。
それは、それは・・・少しでも自分のことを思っていてくれていると思っても、自惚れてもいいのだろうか。
後にはクラリとするような彼女の香りが残っていた。
あとがき
彩雲国も久々です。リハビリ、リハビリ。