2月1日

ストロベリーキャンドル
― 胸に灯をともす ―



藍家直系でも、藍家当主の弟でも、藍龍蓮の兄でも、藍楸瑛でもない自分を見つけ出し、冷め切った暗い胸の中に灯をともした君が未だ私の側を離れず、灯を与え続けてくれることに感謝する。

「楸瑛。どうしたの?ぼーっとして。」

心配そうにこちらを見上げてくる彼女が見える。

「いや、なんでもないよ。」
「なんでもないって顔じゃないのよねー。」

彼女は本当に鋭い。自分自身が気付かない事を言い当てる。うかつに顔に表情を出したら大変なことになった。

「本当になんでもないよ。心配性だねーは。」
「もう。」

頬を膨らませ腕を組みこちらを睨んでくる。

「ところで、何か用かい?」

これ以上の追求を避けるため先手を打つ。
すると、彼女も用を思い出したようで腕を解き、頬の膨らみも縮んだ。

「あのね、今日は美味しいお酒を貰ったの。だから今夜はそれにしよっかなーって。」
「いいね。」

兄上たちから送られてきたのだろう。
兄上たちは実弟の楸瑛よりその妻、のほうを可愛がっているし、文も月に2,3度やり取りをしているようだった。

「でもね、やめたわ。」
「え?」

意外な言葉に思わず間抜けな返答をしてしまった。

「今夜はお茶を濃いめに入れて、長話をしましょう。」
「なんで、急に。」
「長話をしているうちに楸瑛が口を割るかもしれないでしょ?」

ふふふ。っと口元に手を当てては笑った。
さっき誤魔化したことを根に持っているようだ。

「なるほど。」
「お茶にしましょうね。」

はそれだけ言うと侍女に茶器を持ってくるように言った。
茶器を受け取ると侍女たちを下がらせ自らお茶を注ぐ。

「ねー」
「なぁに?」
「君は覚えているかい?私たちが出会ったときを。」
「えぇ。当たり前でしょ。」

は茶を啜るとにこりとこちらに向かって微笑んだ。

「笑っているのに真っ暗な人だと思ったわ。」
「そうだね。君に会うまでは真っ暗だったよ。」
「そうね。」
が居なくなったら、また暗闇に戻ってしまう。」
「あら、最高の口説き文句ね。」

はまた微笑む。
こんな話をする予定ではなかったのに、いつのまにかのペースに乗せられてこんな話をしている。

「いいわよ。」

不意にがそう言った。

「だって私、楸瑛に灯をともされているのよ。」

だから、ずっと…‥―――





あとがき
切な系を一品!と張り切って書いてみる。断念。