2月8日

スイートピー
― 門出 ―






さよならと手を振り、別の道を歩む君を俺は素直に喜べるのだろうか。

「絳攸。」
「・・・。」
「こーゆー。ちょっと聞いてるの!」
「痛っ!」

耳を引っ張られようやく気付く。見れば彼女は頬を膨らましていた。

「なんだ。」
「なんだじゃないわよ。」

もうッと膨れっ面のまま腕を組んでこちらを睨んでくる。全く怖くない。

「私、貴陽を立つわ。」
「なに!いつだ!」

突然の別れの宣告に驚いて立ち上がってしまう。

「三日後くらいかな?蘇芳君とは別口でね。」

彼女の移動の管轄は吏部じゃどうしようもない。
彼女は秀麗と同じく、御史台の一人だ。
なんでもあの御史台の長官をねじ伏せて、女性官吏への道が閉ざされていた時期に御史台に入った。
そんな彼女と俺はなんら関わりがない。それでも出会ったのは、偶然か…必然か…。
兎に角、長い時間を掛けて想い人同士になった。

「こんな機会滅多にないもの。これを逃したら二度と巡ってこないわ。」

彼女は真剣な顔で言う。
確かにそうだろう。あの御史台の長官だ。二度の機会を与えるわけがない。
出来ることなら、ここは応援すべきだ。
自分の力の限り、上に登りたい。女だからなんて言わせないといつも言っていた。
だからここは、背中を押して、応援を。

「でね。考えたんだけど。」

彼女は真剣な表情をしてこちらを見てきた。
その表情から受け取れるモノを想像し始める。
最悪の場合は、・・・別れる。この関係に終わりを告げるのだ。

「でね。」
「あぁ、わかってる。」
「え!」
「別れよう。、お前はお前の行く道を行くといい。」

彼女の、の口から別れの言葉は聞きたくなかった。だから先手を打って自分から言う。
脳内で深く深呼吸を吸っていると、突如頬に激痛が走る。
叩かれた。

「冗談じゃないわ!」

の大きな瞳には涙が浮かんでいる。零れるのを必死になって止めていた。

「私のこと嫌い?」
「そんなわけないだろう!」
「私は、恋心を犠牲にしてまで出世は望まない。」
「・・・。」
「距離があると心は他の女の子に揺れ動くかしら?」
「お前だけだ。」
「なら、見送って。必ず帰って来いって。」
「お前はいいんだな。」
「私のじゃじゃ馬っぷりは絳攸が一番知ってるでしょ。」
「あぁ。」

その日は今までになく愛し合った。
離れてしまっても心は相手にあると、必ず手紙を書くことも約束した。
三日後。

「それじゃーね。」
「あぁ。お別れだ、。」

それぞれの道を行く門出に相応しい別れの言葉。



あとがき
自分が卒業なのでちょっぴりしんみりと明るい門出に仕上げました。