2月10日

金魚草
― 予言 ―






その子は20を迎えずに死ぬことになる。
人に怨まれて死ぬのだ。

この予言をどれだけ恨んだことだろう。
私が生まれてくるときにその予言をした術者が今どこにいるのかは分からない。
勝手なことを言うな!と、どれだけ怒鳴りたかっただろう。
その予言を信じた私の親は私を部屋に閉じ込めた。
人との関わりさえなければ、怨まれる心配もないと決めたのだろう。単純なことだ。
暗い部屋の中で私の青春は過ぎていった。

「今はその予言に感謝しているわ。」
「なんで?」
「だって、そうじゃなかったら、私は貴陽に来ていないわ。」
「そうか。」
「旅をすることも、路銀をためる為に花街で妓女をすることも、楸瑛に会うこともなかったわね。」

ふふっ、と楽しそうに笑うは綺麗だった。

「それで?はいくつなんだい?」
「女に歳を聞くのは野暮だわ。」

クスクス笑う。
妓楼の一角の部屋に笑い声が響いた。

「その予言に感謝しないといけないな。」
「えぇ。」
「君に会えない人生はつまらないだろうね。」
「そうね。廃れたままだったかもね。」
「あぁ。」
「ねぇ、楸瑛。」
「なんだい。」
「好きよ。大好き。」
「あぁ、私もだよ。」
「うん。」
「愛してる。」
「ありがとう。」

月の光が一筋延びた。の白い肌を照らす。

「あのね。楸瑛。」
「なんだい。」
「私本当に好きだったの。貴方のこと。だから、幸せにね。」
「何言って・・・。」
「私の生まれた日。明日なの。だから、もう・・・。」
「そんな予言なんて」
「ううん。」

は静かに首を振った。そして、緩んだ楸瑛の手から離れ窓から月を見上げた。

「その予言をした人ってね。・・・の、ひとな、の。」

声が聞こえなかった。掠れていった。そしては月の光を浴びて床に崩れていった。
月は綺麗な円を描いていた。



あとがき
勿論、予言したのは縹家の人です。