2月21日

ムスカリ
― 黙っていても通じる私の心 ―






!好きだぞ!」
「・・・そう。」
「そうだ!」
「・・・。」
「・・・。うふふっ。」

いつもだ。
私は一方的に愛を告げられ、流す。
これでも一応幼いころより両方の親が認める婚約者同士。もちろん、私たちも互いに想いあっている恋人同士。

「よし、!京極のところへ行くぞ!」
「いってらっしゃい。」
「行かないのか?」
「うん。だから、礼二郎だけ行ってきなよ。」
「わかった。」

そう言って礼二郎はいつものようにこの薔薇十字探偵社から姿を消した。
和虎さんがお茶を持ってくる。益田さんは礼二郎の残した仕事を片付ける。
これが、日常。

「あのーさん?」
「ん?なに?」
「こう言っちゃーなんですが、あの人は拗ねませんか?」
「・・・。」

そうやって尋ねられたら思い当たるのはひとつだけ。
視線を動かし、益田さんに向けても同じようにこちらを見ている。
そんなに不思議なものか?

「拗ねたことはないよ。」
「そうですか。」
「でも、さんが毎日ここに来ないと大変じゃないですか。」

今度は益田さんからの質問。

「あぁ。」

そう言えばすごく大変だった。
1日どうしても読みたい本があってここに来るのを止めたとき、次の日行っても門前払い。
あっちが門前払いをしたくせにその日の昼に和寅さんと益田さんが私に助けを求めてきた。
そうしてようやく1日ぶりにあった礼二郎はそれは、それは大層ご立腹で、機嫌を直すのに本当に時間と手間がかかった。

「その説は迷惑掛けたよ。でも、大丈夫。それとこれとは別らしいから。」
「そうなんですか。」
「はぁ。」
「納得していないね。」
「どうも…。」
「まぁ。」
「…私が言わなくてもわかるってことよ。ちゃんと通じてるらしいから。」

そう言ってニコリと笑い、立ち上がった。

「どちらへ?」
「礼二郎のところ。」

それだけ言うと本を片手に扉を閉めた。階段を軽やかに下りる。
いた、いた。ビルディングの階段下には礼二郎の姿。

!待っていたぞ!」
「ん。ありがとう。」

礼二郎の差し出す手をとる。
まったく、何でわかるのかしら?
思い出しても「一緒に行きたい。待ってて欲しい。」なんて言っていないのに・・・変なの。
そう、変なのだ。
私は恥ずかしくて正面切って好きだの愛しているだの言えないのに、礼二郎にはそれが伝わっている。
幼馴染って言う枠から言えば、修だって十分なんだろうけど上手くいかない。
関口さんとはまったく駄目だったな…。会話が成り立たなかった。
礼二郎だけなのだ。私が何を言わなくても伝わるのは。
って…これって随分な惚気じゃないか。
でも、悪くなくって自然と口元が緩む。うん。愛しているよ礼二郎。

「僕も愛しているぞ。。」



あとがき
言わなくても通じ合えるっていいよね。恋愛であれ友情であれ。