2月25日
ヒヤシンス
― 心静かな愛 ―
「日本人は嫌いです。」
そう言ったとき、彼女は私をしっかり見て笑った。
何故笑われるかなんて全然わからず、それが癇に障って背を向けて立ち去った。
そんなことをされれば普通、二度と会わないと決めるものだと思っていたのだが彼女は予想外に次の日も事務所の私の部屋に顔を出した。
もちろん相手にはしない。
彼女もそれをわかってかまったく声をかけてこない。
ただ、そこにいるだけ。
「なにか用ですか?」
そう聞いたのは5日後のことだった。
すると彼女はとても嬉しそうに微笑んでこちらを見てきた。
「なにも。強いて言えばリンさんと仲良くなりたくて…かな?」
「先日言ったはずです。」
「日本人が嫌いだってこと?」
「えぇ。」
「だからなんだって言うの?」
「・・・。」
「確かに日本人は酷いことをしました。それで?」
「・・・。」
「だからと言って私とリンさんが仲違いになるのは可笑しくないかしら?」
「そうかもしれませんけど。」
「私を嫌いになるのは結構。でも、私を知ってから嫌いになってください。」
「・・・。」
「いい大人が食わず嫌いだなんてナルに会わせる顔がないじゃないですか。」
「・・・はぁー、わかりました。」
「わかってくださって何よりです。」
それから何があったかと言われても、そう特別な何かは私たちの中には起きなかった。
すれ違えば挨拶や会釈はするし、書類の整理を手伝ったり手伝ってもらったり、お茶を淹れたり淹れてもらったり…職場の同僚として働き始めた。
「それで、どうしてリンさんと付き合うようになったんですか?」
「んーと、どうしてだろうね。わからないけど、うん。」
応接間のソファーで谷山さんとが向かい合っていた。
出て行くにも出て行けない。
ナルさえいればこんな話にはならなかったのだろうが、生憎どこかに出かけていて不在。
出るのは諦めるかと思い、部屋に引き返そうとしたときの声が耳に入ってきた。
「側にいるのが心地よかったの。」
「もしかして惚気られてますか。」
「ふふっ。」
「あぁーもう。」
「ほら、リンさんて何も言わないけどね。側にいると愛されてるなって感じるのよ。」
「ご馳走様です。」
苦笑して頭を下げた谷山さんを見て彼女は楽しそうに笑った。
谷山さんからふと視線を上げ、こちらを見てきた。
視線が交わる。
恥ずかしそうに顔を下に背けた彼女を見て、一層熱が冷めず踵を返した。
あとがき
GHのリンさん。需要があるのかなんて聞かないで!