カーネーション
― 貴方を熱愛します ―
友人から届いたメールで今日が自分の誕生日であることを知った。
仕事場でもある英都大学に行き、講義の合間に強引に渡されるプレゼントを見て今日という日が休みではないことを呪った。
そして今、自宅のリビングでにこっりと微笑んでいる彼女を見て心底疲れ果てた。
「春の陽気で頭が湧いたか。」
「酷い言い草ね。折角、愛しのマイハニーが祝いに来たって言うのに…。」
確かに。テーブルの上にはおいしそうな料理が並んでいる。ちょっと名の知れたワインも用意されている。
これだけ見れば、愛しのマイハニーとやらの言動には目をつぶって今すぐにでも愛してやりたい。しかし、彼女の姿を見ると・・・頭が痛くなった。
「ちょっと、ちょっと。人の顔を見て、眉間に皺寄せないでくれる?」
「なんだその格好は。」
「ほら、よくあるじゃない。私がプレゼント!ってやつ。」
一体、どこでよくあるのか聞きたくなったが、聞いても返ってくる答えはなんとなく想像できるので無駄なことはしなかった。
はというとグルグルとリボンを巻きつけた格好で変わらずこちらを見ている。
「本気じゃないわよ。ちょっとした余興よ。」
「ちょっとの割りに気合入っているな。」
「アリスにも手伝ってもらったから。」
共通する友人の名にあぁ、なるほどと納得する。彼女の手首は綺麗にリボンで結ばれており、どうしたとしても一人では結ぶことが出来ない。
「さてと。ご飯食べるでしょ?」
口で銜えリボンをスッと解いたは台所へと足を運びつつ、振り返って微笑んだ。
ここにきてようやく、自分の誕生日が少し救われたような気がした。
出された料理はどれもおいしかった。これまでもの料理を食べる機会は多く、その度に料理上手だとは思っていたが、ここ数年はばぁちゃんに教えを請うようになり腕前を上げてきた。
こうして向かい合い話すのは久しぶりだったからなのか、それとも気にもしていなかった誕生日にが来てくれたことを喜んでいるのか、どちらなのかは分からなかったが、今日の自分は饒舌だった。
学生時代のことや仕事のこと、誰彼が結婚しただの他愛もないことばかりだったがそれが楽しかった。
一段落した俺は、皿を片付けようとするもに主役は休むのとか上手いように言い包められてしまった。ボーっと彼女が洗い物を終えるのを待ちながら、自分の誕生日を噛み締める。
この歳になれば誕生日だからなんだと思うのだが、こうして祝われるのは悪くはなかった。
「火村、火村。」
「なんだ。」
「今回のプレゼントは奮発しました!」
ごそごそと彼女は風呂場からプレゼントを持ってくる。見当たるところにないとは思っていたが、まさか風呂場とは考えもしなかった。今日は驚かされてばっかりだ。
「まずは、猫缶。」
「…俺へのプレゼントじゃないのか。」
どう見たってそれは俺の食べるものじゃない。足元にいる3匹の愛猫たちへの物だ。
厭味を言ったのだが、はというとケロッとした表情で、猫缶代をプレゼント。と言ってきた。
「次にネクタイね。」
「・・・。」
「ほら、学会あるんでしょ?」
「あぁ。…言っていたか?」
「うん。電波受信したもの。」
「・・・。」
冗談なのだろうか。それとも本気なのか。の表情からそれは窺えない。
「嘘だよ。アリスに聞いた。」
「あぁ、そうか。」
「うん。それで、これがアリスからね。」
ペロンと紙を一枚差し出す。
何か書かれているが、それだけだ。なんの包装もない。
「なんだこれは。」
「なんでも密室トリックだとか。これで火村に戦いを挑むって言ってた。」
「プレゼントなのか。」
「…果たし状も兼ねてるんじゃない?」
苦笑した彼女は、でもアリスらしいとポツリと呟いた。
「で、最後は。はい。」
目の前に花。
甘い匂い。
「火村の誕生花なの。知ってる?母の日みたいでしょ?」
真っ赤なそれは母の日に贈る定番の花だった。
そしてこの花が自分の誕生花であることも知っていた。
確かこの花の花言葉は貴方を熱愛します。
は、この花言葉を知っているだろうか。知らなかろうが、知っているかは今から分かることだ。
ただ、今は。
花言葉どおり熱愛してもらおう。
■ハピバ!火村!という意味も込めてます。