8月1日

ハイビスカス
― 常に新しく繊細な美しさ ―



ちくり、ちくりと花を描く。
この世界の何処にもないであろう、花を。

。この花はなんて言うの?」
「ハイビスカス。」
「灰、びす、カス?」
「えぇ、真っ赤な花でね。とても綺麗なのよ。」
の世界にあるの?」
「そう。夏になるとね、庭に咲き誇るのよ。暑い日ざしにも負けずにね。」
「へぇ。好きだったの?」
「えぇ、そうね。好きだわ。」

ハイビスカスをわざわざ刺繍で作ろうとした訳じゃない。
あの人を、あの人を思っていたら自然と針が進んだのだ。
…何故、この花だったのだろう。
もっと似合いそうな花など沢山あるだろうに。
自分は何故、ハイビスカスだと思ったのだろうか。
・・・分からない。

「ねぇ、。」
「なに?秀麗。」
「ほら、この前花言葉について教えてくれたじゃない。」
「あぁ。」

そう言えば、ハイビスカスの花言葉はなんだっただろう。

「この花の花言葉ってなんなの?」
「えーっと…何だったかしら?」

必死に頭を抱えるけれど思いつかない。

「あ!無理しなくていいわよ。思い出したときでいいから。」

そうやって秀麗が言ってくれたのだけど、一度気になるとなんだか気持ちが悪い。
私はあの人を思ってハイビスカスを描いた。
あの人。静蘭は美しいのだ。男の癖に女の私なんかよりもよっぽど花が似合う。

「・・・あ。」
「え?」
「常に新しい繊細な美しさ。」
「それが花言葉?」
「うん。」

そうだ。この世界に来て、初めて静蘭と会って、もう何ヶ月も一緒にいるのに常に新しいのだ。
静蘭の世界は常に私を翻弄する。静蘭の魅力に会うたび気付く。

「・・・ッ。」
「ちょっと熱でもあるの?顔が赤いわ。」
「え、なんでもない。暑さのせいだわ。」

秀麗にそんな馬鹿みたいな言い訳をして、やっぱり気分が優れないと言うと室に篭った。

アァ、どうしよう、この胸の高鳴りを。
私はもう二度とハイビスカスをまともに直視できないかもしれない。



後書き
異世界トリップした女の子の話。