8月5日
タラゴン
― 不変の好奇心 ―
仕事は山済み。
どこぞの馬鹿な吸血鬼が逃げ回ったせいで街を一つ壊滅してしまった。
勿論そんなことをするのは私じゃない。
異端審問官なんて呼ばれているどこぞの馬鹿神父のせい。
その異端審問官が山済みの仕事をしている私の背に、金魚の糞の如く張り付いている。
「なんなんですか!ブラザー・マタイ。」
「何でもありませんよ。お仕事を続けてください。」
「見てるだけでしたら、手伝ってください!」
そうだ、だってこの書類の半分はこの男の身勝手な行動のせいなのだから。
「何故です?」
「大体、なんで、何が楽しくて、街を一つ滅ぼさなければならないんですか!」
こちらの処理も考えてくださいと怒鳴るも、たいして悪びれた様子もなくただゆっくりと微笑んだ。
「神のお告げです。」
「・・・はぁ。」
もう、何を行っても無駄だ。
諦めて仕事に取り掛かろうとして、ふと思いついたことを口にした。
「大体なんで私に付きまとうんですか。」
一介のシスターに異端審問官が四六時中張り付くわけが知りたい。
「決まってるじゃないですか。好奇心です。」
「さっさとそんな好奇心捨てて下さい。」
まったく先ほどから視線を感じで仕事が出来ない。
「あなたが堕ちてくれれば考えますよ。」
・・・それは、私の気持ちを知ってて言っているのだろうか。
腹が立ってヤケクソまじりに答える。
「…随分前に堕ちたような気がするんだけど。」
「そうでしたか?」
「そうよ。」
そうよ、あなたが私に近づくずっと前から私は堕ちているのだ。
「それは残念。」
「さっさと捨ててもらえるかしら?」
ブラザー・マタイの噂を聞かない訳ではない。
噂はこう言うものだ。
『手に入れるまでが興味の対象。堕ちてしまったら捨てられる。』
だから、捨ててもらえる?と言ったのに、にこりと笑った男はこう言った。
「どうやら、この好奇心は不変のようです。諦めてください。」
…全く冗談じゃない。
後書き
名前変換無。