8月7日

ヒマワリ
― 私はあなただけを見ている ―




「まるで犯人はヒマワリみたいですね。」
「あぁ。」
「なんや、ヒマワリって?」
「作家先生は知らないみたいだぜ。」

火村はからかう様な笑みでこちらを見たが、親切なちゃんが教えてくれた。

大洋神オケアノスの娘、水の精クリュティエは太陽神アポロンに恋をしました。しかし、それは叶わぬ片思いの恋でした。 嘆き悲しむ長い一日は始まります。髪を振り乱し座り込んで泣いてばかりの毎日です。
恋する太陽神アポロンが日輪車で東の空に昇ってくるのをひたすら待ち、天の道を翔る太陽神アポロンを目で追いかける毎日。 太陽神アポロンが西の空に沈む頃には、また悲しみの涙が溢れるのです。
食べ物と言ったら自分の流す涙と冷たい夜露だけの毎日を過ごしていました。
ある日とうとう、彼女の足は地面に根付き、顔を花に変わってしまいました。
こうして今でもヒマワリになった水の精クリュティエは太陽神アポロンを追い求めているのです。

「つまり、この水の精と犯人が似てるっちゅーわけやな。」
「えぇ、それにもう一説あるんです。」
「もう一説?」
「えぇ、どちらかと言うと。この説が犯人に似ているかもしれません。」

クリュティエは太陽神・アポロンの恋人でした。
彼女はずっとこの幸せが続くものだと思っていたのですが、幸せな日々はそんなに長くは続きませんでした。
アポロンが彼女を棄て、レウコトエに走ったのです。クリュティエはこの失恋に耐えられず、嫉妬に狂わんばかりになりました。
彼女はアポロンとレウコトエの関係を、あることないこと言いふらし、レウコトエの父親にまで告げ口をする始末です。
こうして復讐は果たしたものの、ヘリオスの心をもう二度と取り戻すことはできませんでした。
ヘリオスは彼女を無視し、決して振り向くことはありませんでした。
クリュティエは大地に座り込んで、毎日空を見上げてはヘリオスの太陽の車が空を駆けるのを見続けました。
そのうち彼女の身体は大地に根をはやし、一輪の花になりました。

「・・・なんやけったいな話やな。」
「えぇ、こうなるとどっちに同情していいのか。」

ちゃんは困ったように笑っていた。
そして思い出したように一言呟いた。

「だから花言葉は『私はあなただけを見つめる』なんですよね。」

そう言ったちゃんの目にはいったい何が映っていたのだろうか。
とても淋しい笑顔をしていた。




後書き
夢?…兎に角、ただギリシャ神話の話が書きたかっただけ(ォィ