8月9日
デルフィニウム
― 誰もがあなたを誉める ―
「素敵でしたわ。」
「ありがとう。」
「流石、柚木様ですね。」
「そんなことないよ。」
うっわー嫌なものを見てしまった。
目の前で繰り広げられるやり取りに思わずUターンをした私。
香穂子が出ていたコンクールの参加者の1人。
なんでもファンクラブまであるらしいのだけど、私のタイプじゃない。
この前だって…
「ったー。」
「大丈夫?」
「え?・・・あぁ、」
「そう、良かった。気をつけるんだよ。」
すると今度は私のぶつかった彼女たちのほうを向き、
「君たちも、おしゃべりは楽しいけれど、周りを見ようね。」
と、笑顔で。
そしていつものように彼女たちは頬を染め上げしおらしく返事をした。
…ついていけない。
そしてその前は、
「柚木、よくやったな。」
「なんでしょうか。」
「模試の結果は全国8位だったそうじゃないか。」
「いえ、まだまだですよ。」
「頼もしいな。頑張ってくれよ。」
「はい。」
これまた笑顔で応答。
こんなに他人から誉められるなんて、ここまでくると誉められるのが好きだとしか思えない。
「香穂子。」
「なに?」
「柚木先輩って、バカ?」
「えっ?なに言って!」
「だってさーいつも笑顔で胡散臭いし。」
「まぁ、」
「それに何処行っても誉められてるし、なんて言うか…八方美人すぎ。」
「…ちゃん。」
ん?と香穂子の顔を見ると青ざめていた。
何だと思って後ろを振り返ってみると…あら。
噂をすればなんとやら。
「やぁ、日野さんとさん、だったよね?」
何故知ってるんですか?
って言うか、香穂子ったら何処に…いや、アイコンタクトでごめんねって言われても。
「随分言ってくれるじゃないか。」
「…そちらが本性ですか?」
豹変に驚いた私は、何故かこんな台詞しか言えなかった。
「さぁね。」
「…でも、そっちの方がましですね。」
そんな私の台詞に唖然としたのは柚木先輩のほうだった。
「はぁ?」
「誰もから誉められるようにするなんて無駄な体力と精神力を使うじゃないですか。」
「・・・。」
「だから、バカだなって思ってました。」
「…今は?」
怒るかと思ったのに意外にも柚木先輩は次の会話をし始めた。
「今って?」
「ました。って過去形だろ?」
「あぁ、でも。そうやってガス抜きしてるんなら、バカじゃないのかなって。」
「ふーん。」
「…アホですよね。」
と、とびっきりの笑顔で言ってしまった。
いや、いつもならこんな失敗はしないんだけど、気が緩んでたのだ。
柚木先輩と普通に話していたから、気が緩んだんだ。
「いい度胸だね、。」
真っ黒な笑みの柚木先輩とフェンスの板ばさみになってしまった私。
飛び降りはしたくないし、強行突破も出来そうにない。
…どうしたらいいのか教えてくれ。
後書き
初書き柚木。…アンコールしたい。