8月11日

サンビタリア
― 私も見つめて ―




時計を見る、あと数分後。
ゆっくり速度を落して歩けば、目的の交差点へつく。
赤信号をチェックして反対側の歩道を見れば、彼女はまっすぐこちら側を見て立っていた。
彼女を見つめていると視線が合う。いや、実際はこちらを見てるだけで、合ってはいないんだろうけど。
それでも、心拍数は上昇。

パッと時間が来て赤から青へ変わる。
周りの人から送れて進み出せば中心で彼女とすれ違う。
その時、ちょっと肩をかすった。

「すみません。」
「あ、いや。」

彼女から声をかけられて驚いてそんなことしか言えなかった。
いつもなら気の聞いた言葉の一つや二つ、口から滑るように出てくるのに…それなのに…
彼女は反対方向へ歩ききってしまっていた。
未練がましくその後姿を見送る。ぴしりと前を向いて歩く姿はSOS団団長を思い出させた。

今日は、特に報告するようなこともなく、ただ普通に過ぎて行った。

少し彼と話をしていて遅くなった帰り道。例の交差点で見知った姿を見つけた。
彼女が、いた。ただその横には男の姿が。世界が真っ暗になってしまった。

信号が青に変わる。隣の男に手を振り、彼女はそのまま歩道に立ちこちらを見ていた。
朝のようにまっすぐこちらを…視線が交わった。
人ごみに流されるように彼女の元へたどり着く。

「朝はすみませんでした。」
「え、いいですよ。」
「お時間ありますか?お礼させて下さい。」
「えっと。」
「無理にとは言わないんです。駄目でしょうか?」

そうやって見上げてきた彼女を見てただ、唖然としていた。

「構いませんよ。」

やっと落ち着きを戻した自分が言った言葉がこれだった。
彼女は嬉しそうに微笑み、行きつけの喫茶店があるんです。と歩き出した。
後を付いて行く。目的の喫茶店はすぐ近くにあり、人気のない奥の席に座った彼女と僕は他愛もない話しをし始めた。

「おいしいでしょ?」
「えぇ、まさかこんな場所に紅茶専門店があるとは思いませんでした。」
「意外に穴場なのよ。」

クスクスっと彼女、は笑った。
好きな本の話とか、SOS団の話とか、本当に他愛のない話しだった。
余談だが、さっきの男はクラスの学級委員らしい。会議が長引き、帰る方向がたまたま一緒に帰っただけと言うことだった。
紅茶専門店を出て、あの交差点へと歩く。

「今日はご馳走になりました。」
「いいえ、お礼ですから当然です。」
「…あの。」
「はい?」

呼び止めるつもりはなかったのに、どうしても別れたくなかった。

「…いつも、見てました。」

とっさに出てきた言葉はこんな変なもので。(気持ちがられるだけなのに)

「…私もいつも見ていましたよ。」

え?っとさんを見れば、ふふっと微笑んで行ってしまった。



後書き
片思いぞっこんの古泉を書きたかっただけ。