8月12日

チューベローズ
― 危険な楽しみ ―




何故、こんな関係になったのかと聞かれると明確な答えはない。
ちょっとした偶然で肌を合わせてみたらこれが面白いくらいに合った。

「っつ…痛いわ。」
「局長は仕事だぞ。」
「知ってるわよ。」

ぱっと放された手首を押さえると、目の前の男を睨んだ。

「何しに来た。」
「遊びに。」

呆れた顔をした男は、机に向かい仕事に戻った。
見る限り暇つぶしの相手をしてくれそうにはないので、手近な机に腰掛けるとマニキュアを塗り始めた。
マニキュア独特のシンナーのにおいがこの部屋のにおいと混じる。
元々ここの部屋も薬品独特のにおいが立ち篭っているので今更シンナーの1つや2つと言うわけだ。
机に右足を乗せ、足のつめもマニキュアで真っ赤にする。

「無防備だな。」

いつの間にか近づいてきた男に机の上に押し倒された。

「痛いわよ、阿近。」
「そりゃ、悪かった。」
「それよになに?」
「スリルはどうだ?今ならデンジャラスも付けてやるぞ。」

至って真面目な口調に思わず噴出してしまう。
だがそれも長くは続かない。
私の口は押さえつけられてしまっていた。

「ん・・・。」

時々漏れる声は自分の声じゃないみたいだ。
阿近の手はゆっくりと下へ降りていく。

「っちょ、ちょっと。」
「待ったはなしだ。」
「そんなんじゃないわよ。電気ぐらい消してよね。」

私の申し出にだるそうな顔を見せたが電気を消しに立ち上がっていた。
その後姿をロックオン。・・・飛び込む。

攻められてばかりじゃつまらないもの。
壁一枚の危険な楽しみはまだまだ始まったばかり。



後書き
言うなれば、局長夫人火遊びをする。でしょうか。