8月13日
ラン
― 熱烈 ―
久々のお休み。局長に直訴をしてまで貰った休み。
更にあの男に覚られないように綿密に手回しをして手に入れた安息に自然と顔がほころぶ。
「ふふっ。」
チャイムが鳴り来客を知らせる。私は郵便屋さんかしら?と油断して扉を開いた。
・・・。
「おはようございます。さん。」
「失礼しましたー」
扉を閉めた。つもりだったが、何かにがつんとあたって閉まらない。
下に視線をずらせばあの男の足が入っている。
「あの。怪我しますよ。」
「それはいけませんね。」
「悪徳業者みたいなことしないで下さい。ただでさえ、悪徳神父なんですから…」
ついつい、ポロリと言ってしまった。
あの男は、そうですか。そんなことを…とブツブツ言いながら隙間から微笑んだ。
「…あの、ですね。」
「いいんですよ、さん。それより、足の感覚がなくなってきたんですけど。」
・・・。そう言われて、ようやくあの男の足を扉で思いっきり挟んでいたことに気付く。
「だ、大丈夫ですか。なんでそんなになるまで言わないんですか!と、とにかく!」
扉を開け、男を押し込む。
ソファーに座るよう言うと、氷を持ってくる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それにしても無用心ですね。男を家に上げるなんて。」
「!それは!仕方なく。」
「さん、少し来てください。」
「はい?なにか。」
近づけばギュッと抱きしめられる。
「な、なにするんですか!」
「ほら、こんなことになるんですよ。」
「ですよ、じゃなくてですねー。」
「…。」
「ちょっと、放してください。」
「私は休みを許可した覚えはありませんが。」
「局長から承諾書は頂いています。」
「まず、上司に報告するのが普通でしょう。」
「そ、そうですけど…。」
報告してもその場で破り捨てるくせに!と今度は本音をうまく隠す。
この状況でポロリと口を滑らしたらとんでもないことになる。
「…それより、さん。名前は呼んで下さらないのですか?」
「嫌です。」
「呼んでくれれば本日の休暇届を受理しましょう。」
「うっ・・・。」
「勿論、この3日間の休暇届けもですよ。」
「…マ、タイ。」
顔を背けて呟く。
「…。」
じっと視線を受ける。…何か言えよ!コンチクショー!!
顔を戻し、マタイと向き合うように直せば、そこには…
顔を真っ赤にしたマタイの姿が。
な、なんで真っ赤になってるのよ!まさか、
「具合でも悪かったんですか?」
「いえ、違いますよ。」
「兎に角、これで、本日の休暇含む休暇届は受理していただけるのですよね?」
「はい。」
「良かったー。」
「私も良かったですよ。さぁ、さん。」
私を放したマタイは、手を差し出しこう言った。
「残りの休暇、楽しみましょうね。」
「え…。」
その後、何故かマタイとの仕事が多くなり、嫌味を局長に言うものの一行に改善されず。
家に帰れば何処から入ったのか知らないが、マタイが出迎える。
ええい、最終奥義!とばかりに我が教理聖省と仲の悪い国務聖省へと逃げ込んだが、あっけなく捕まる。
仕方なく諦めて捕まっていたところをシスター・パウラに保護。
「いったいなんですか!私が何かしましたか!」
「愛情表現だそうですよ。」
「…常識外れの変な愛情表現です。」
「違いますよ。彼に言わせると、これは熱烈な愛情表現だそうですから。」
「…遠慮したいです。」
「さぁ、頑張って逃げてください。」
ポイっと部屋の窓から落される。
シスター・パウラ!!ここは3階です。私は普通の事務官で、取り分け運動神経が優れてるわけじゃないんですよ!!と、心のなかで絶叫して、ただ目を瞑る。
ボスンと音がして落下がおさまる。そっと目を開ける。
「大丈夫でしたか?さん。」
「…ブラザー・マタイ。なんで。」
「落ちてきたから何事かと思いました。怪我はないようですね。」
一応、医務室に行きましょう。と私を抱きかかえたままマタイは歩き出した。
何で、落ちたのがわかったのかと言う質問は愚問だと言われた。
「そんなの私がいつもさんを見ているからですよ。」
一瞬クラリときてしまった。…うっわーヤバイかもしんない。
熱烈な愛情表現に白旗を揚げるのもそう遠くない未来の話。
後書き
だんだん、マタイの話し方がわからなくなってくる。