8月19日
グラジオラス
― たゆまぬ努力 ―
伸ばし続けた髪の毛は腰まであった。
本当なら今頃は肩のところでバッサリのはずだったのに、一年前の春にあの人が綺麗だと言ったその一言。
その一言が髪の運命を変えたといってもいいと思う。
そう考えると私ってちょっと単純だわ。
「さん、こんにちは。」
「え?あ…白馬くん。」
「お買い物ですか?」
「う、うん。えっと白馬くんは?」
「えぇ、元高校生探偵の皆さんと少し呼ばれていたものですから。」
後ろに視線をずらすと工藤新一さんと服部平次さんがいる。巷で有名な高校生探偵だったから名前くらいは知っている。
白馬くんは何処に呼ばれていたかなんて言わないけれど、きっと警視庁かなにかだろう。
それにしても何でこんな時にあうんだろうか。
あぁ、もう少し可愛い格好してくればよかったのに…悔やんだところで過去には戻れない。
「で、聞いてます?」
「え?」
考え込んでいた私は白馬くんの言葉は右から左。
急に近づいてきた白馬くんの顔によって現実へと呼び戻されたのである。
「ご、ごめん。聞いてなかった。」
「いいんですよ。あのですね、宜しければお茶をしませんかってことなんですけど。」
「お茶?うん、いいけど…」
私は大歓迎!だけど、後ろのお二方はいいのだろうか。
もしかしたら何か重要会議でも開くんじゃないだろうか、そんなところに部外者の私がいたら凄く邪魔だよね。
「いいんですよ。彼らとはここでお別れだったんです。」
こんなショッピングモール街で?と不信そうに見れば、クスクスと笑って、これから彼らはデートの約束が会ったのでこちらまでご一緒したまでです。と言われた。
私ってそんなに顔に出やすいのかしら?
「それなら、是非。」
「よかった。」
微笑みかけた白馬くんは後ろのお二方に軽く挨拶をすると、さっ行きましょうと手を引いた。
「そう言えば、さんは何をお求めにいらしてたんですか?」
「シャンプーだよ。」
「シャンプー?」
「うん、このモール街の雑貨屋さんしか売ってないから、いつも買いに来るの。」
「その一店のを、ですか?」
「そうだよ。私の髪に一番合ってるからね。下手に違うのを使うとボサボサになっちゃうんだ。」
苦笑しながら話した戯言に白馬くんは随分興味を持ってくれていたようだ。
ダージリンとクラッシクチョコを食べながら、これ美味しいね。と笑いかけたその時白馬くんの手が私の髪を一房持ち上げていた。
「えっと・・・。」
「失礼、ただ、本当に綺麗だなと思いまして。」
「そりゃーね。この髪を保つのに結構努力してるから。」
「努力、ですか・・・。」
「うん、何ってったって髪は女の命だからね。」
「そうですね、…。」
じっと髪を見つめられる。
まだ手は離れない。
うぅードキドキする。離して欲しいけど離して欲しくないような。
上手くしゃべれていたか凄く心配。
また視線を、意識を白馬くんに集中させる。
白馬くんは私の髪を口元へ近づけ…口づけた。
「な!」
「見られてましたか?すみません、綺麗だったのでつい。」
「…あ、そう。」
微笑まれれば、頷くしかなくて。
白馬くんの顔を見る度胸もなくて、私はティーカップに手を伸ばした。
後書き
初ジャンルにマイナーキャラ。