8月20日

ピラミッドアジサイ
― 同士 ―




黙々と仕事をこなす。
悪鬼巣窟と恐れられる吏部と共に悪名高い戸部では初の女性官吏の内の一人、が目まぐるしく働いていた。
上司や先輩官吏が言うより早く、全ての資料を揃え差し出す。
ゴーン。と銅鑼が鳴る。これも、が来て始まったことだ。
ほっておけば休憩さえも取らず、倒れるまで仕事をする官吏の為に休憩の時間を取り入れるようにした。
銅鑼が鳴ると、皆一様に筆から手を離し、机の上の書類を風で飛ばないようにすると少し離れた休憩場所へと集まる。
そこでは、 がお茶を淹れてくれまったりとした休憩を取る。
ひとたび銅鑼が鳴れば、皆は茶器を重ねてに渡すとまた仕事へと戻る。

「いやー休憩があると仕事がはかどるな。」
「あぁ、あと少しで休憩だから頑張ろうっていう気にもなるしな。」
「それに、の淹れる茶が美味い。」
「違いねー。ありゃ、美味しいわ。」

と中々好評である。
そんな にも悩みはあるもので、同じく女性官吏になった紅秀麗の姿を見かけぬと少し不安になっていた。
どうしたのかしら?
もしかして、クビなんてことはないわよね…。
忙しく働きながらも気になるのは友のこと。
この二人、と紅秀麗はただの友ではない。
同じ夢を追いかけ、同じ舞台に立ち上がった、言わば同士なのである。



「ったー。申し訳ありません。」
「…いいのよ、私のほうこそって、じゃない!」
「…秀麗!」

府庫の前でぶつかった相手は、秀麗だった。

「良かった、クビじゃなかったのね。今はどこにいるの?」
「えっと…」

気まずそうな顔をする秀麗。

「事情があるのね。気にしなくていいわ。」
「ごめんなさい。」
「いいのよ。でも、良かった。」
「心配かけたみたいね。」
「ホントよ。」
「…今何処にいるか言えないけど、」
「分かっているわ。」
「夢は忘れていないわ。」
「えぇ。出世してどこかで会いましょう。」
「何処かって、そんなの朝議だわ。」
「そうね。秀麗、こちらは任せて。」

微笑めば、びっくりした顔の秀麗。
少し考えれば今の秀麗が何処に配属しているか分かる。

「…言ったわね。絶対、より早く出世するんだから。」
「ふふっ、簡単には出し抜けないからね。」

手を握り合う。
ギュッと握り放せば、府庫の外側と内側に移動し、自分の仕事へ取り掛かった。

私たちが外であったとしても、今のように話し込むことはないだろう。
ただ、相手の眼を見てすれ違うことになる。

たとえ戦う舞台が違う場所であっても私たちの目指すものは1つだから。
追いかけていれば必ず何処かで出会う。
同士とはそういう者だ。



後書き
友情夢。と言ってみる。