8月22日
クジャクアスター
― ひとめぼれ ―
時は平成、世は太平。不況や政治不信も何のその。人々は大方勝手気ままに生きている。
そんな国のある街、とある片隅。
商店街からやや離れ路地を一つ入れば、そこにはどこかうらぶれた、そして懐かしくもある長屋がある。そこに集うは陰陽師・神主・坊主など、集いも集ったアヤシサ大盛りの住人達。
誰が呼んだか人は言う、拝み屋横丁と…
また今日も一人誰かが迷い込んできた。
「まったく、なんだっていうのよ。」
性は、名は。もちろん女。
彼女はちょっとばかし幽霊が見える。そして、いつも何かに憑かれてる。
「だーかーらー。なんで付いて来るんですか!」
『ちゃんって凄いねー。』
「いや、何が。」
『僕を視える人は横丁にもいるけど、触れる人はなかなかいないから。』
「兎に角、あんたが言う。長屋に届けたら速攻帰るから。」
ブツブツ街中をしゃべりながら歩く。ここは横丁よりも遠く離れた繁華街。
道行く人には平井は視えず、一人しゃべりながら歩く怪しい女として見られているだろう。
まったく、迷惑なことだ。
平井の言うとおりに歩いていけば、どんどん人影が少なくなってくる。
おいおい、このまま私までお陀仏って訳じゃないわよね。そこまで、悪そうには見えないけど…。
チラリと見上げればフワフワと漂っている平井が見える。
『あれあれ。』
「あれ?…普通の長屋だね。」
『でしょ。』
「幽霊がいるくらいだから、もっと寂れたところかと思ってた。」
『それじゃ、ありがとう。良かったら、東子さんに会って行ってよ。』
「いや…」
結局、平井の押しに押されて長屋の扉を開いた。
「ん?あぁ、平井さん。東子さんが探していましたよ。」
出迎えてくれたのは…ドキン。心臓が煩い。なんだかどんどん加速している心拍数。
「平井さん、…。」
ここまで連れて来た幽霊に手を伸ばすもスカリと空振り。
横を見ると姿がない。
・・・置いてけぼり!!!放置プレイですか!!
「あなたは?」
「えっと、といいます。その、平井さんを拾ったので…」
ドキドキしながら言うと、目の前の男の人はあぁ、成る程と納得顔で。
玄関先で向かい合いながら数分。
「中へどうぞ。お茶でもいかがですか?」
「えっ、あ、喜んで!」
元気よい返事にクスクスと男は笑う。
恥ずかしすぎる!顔を伏せながら男に通された部屋には見知った顔が。
「正太郎くんじゃない。」
「あれ?さん。」
「お知り合いかい?正太郎。」
「うん、学校に来ていた教育実習生だよ。」
「ほう。確か、幽霊が視える人だったね。」
「そう、良く覚えていたね、叔父さん。」
お、おじさん?
疑問はすぐに解決しなければならない。もちろん、みなさんには良く分からないこともあるかと思うが、まずは疑問を。
「ちょっと、正太郎くん。」
「んー?なに、さん。」
ちょっとちょっと、と呼び寄せて小声で尋ねる。
「あの人って」
「僕の叔父さんだよ。」
「あのね、…奥様とかいらっしゃるの?」
「いないけど、…まさか。」
「そうだと思います。」
幽霊が運んできたのは恋の訪れ。世の中にはひとめぼれってあるようだ。
結局、平井さんや正太郎くん、お爺さん達のお誘いもあり私は何度も横丁へ足を運ぶことになる。
後書き
漫画さえ持っていません。ホンノ少し立ち読みしただけ。