8月23日
スカビオサ
― 風情 ―
弟の格好はよく奇天烈だと称される。顔立ちは悪くない、いや寧ろ良いほうに分類されるんだが、如何せ服装が駄目だ。
歩くビックリ箱か大道芸人。そしてその服装を上回る、笛の音。
弟は天つ才を持っている。それが理由かどうかは良く分からないのだが、琵琶だって縦笛だって王宮楽士より抜群に上手い。
しかし、横笛だけは駄目だった。もう、かれこれ何年になるか…兎に角随分弾いている筈なのに一行に上手くなる気配がない。
そして、その横笛を気に入り(つまりは下手の横好き)、己独特の感性で吹いているからいただけない。
笛を吹くだけでスズメが落ちてくる。ご近所には迷惑掛けっぱなし。
我が弟ながら、どうも、どうも・・・・・。
さて、前置きは長くなったが、その奇天烈弟に春が訪れたようだった。
数日前、急に紫州の藍邸に訪れた彼の横にいたのは可愛らしいお嬢さん。
なんでも、ここへ来る途中の茶屋の娘さんだそうだ。(これだけ可愛らしいならば看板娘だったに違いない)
そんな彼女が何故?
「初めまして、楸瑛さま。」
「愚兄其の四、心の伴侶だ。」
「龍連、まずはあいさつだわ。」
「む、そうか。ただいま?」
疑問系ではあったが、弟の口からただいまなどそんな台詞が聞けるとは思いもしなかった。
「えと、楸瑛さま。私、その、ですね。」
「別に気にすることない、愚兄よ。我が伴侶はこのに決めた。」
「・・・・・。」
言葉を失うって言うことはどういうことなのか今更ながらわかったような気がする。
そして、色々わかったこともある。
紫州までの旅で疲れてしまっていたを気遣い、自ら茶の準備をする龍連が見受けられた。
これは本当に伴侶にしてもいいのかもしれないと思うほど。
「殿。」
「はい、なんでしょうか。」
「弟の格好を見てなんとも思わなかったのかい?」
「風情のある方だな。と思いましたわ。」
にこりと微笑む未来の義妹。
どうやら心からあの奇天烈な格好が風情があると思っているようだ。
「あの笛の音も好きですから。」
彼女が藍の性を名乗るのもそう遠くない話。
後書き
第三者の視点から…。