12月5日

アレカヤシ
― 勝利 ―




「貴方の首、いただきます」

容赦なく振り上げた刃により、目の前の男の髪はバッサリと切られてしまった。
呆気に取られている男の急所を蹴るとゆっくりと微笑を浮かべる。
後を追ってやってきた味方の武人たちが、同じく彼女を追ってやってきた軍師の命令により男たちを縄で拘束する。
誰もいなくなったなか、彼女と彼は向き合った。

「この馬鹿めが!!」
「ちょっと、開口一番がそれですか。」

呆れた表情を浮かべた彼女に司馬懿はこめかみの青筋を一層深めた。

「貴様は私の弟子だろうが。」
「だから動いたんですよ。あなたの意図を理解しているものが動いた方が得策でした!大体、何で貴方がここまで来るんですか。」
「貴様のせいだろう!」
「勝手に人のせいにしないで下さい。」

ぶすっと頬を膨らませるとそっぽを向いてしまう。
司馬懿は羽扇での頭をはたくと「帰るぞ」と一言。そのまま、踵を返す。
が仕返しをするより早く、司馬懿は馬に乗っていた。ブツブツと言いながら同じくブツブツ言っている司馬懿に手を引かれ、馬に乗る。同時に城に戻ったら覚えておけと心に決めた。

「さっさと帰りましょう。」
「それは、人の馬に乗せてもらっている者の態度か。」
「私は馬に乗れないんだから仕方ないじゃないですか。」
「威張って言うことか!」
「あなたが私を仕事付けにするから、訓練したくても時間がないんです!」
「貴様の出来が悪いせいだろう。」
「うぐ…。で、でもいいんです。今回のことで学びましたから。」
「何を。」
「女だったら敵でも馬に乗せてくれます。」
「馬鹿めが!!」
「煩い。耳元で叫ばないで下さい。」

耳を押さえながら軽く司馬懿を睨む

「貴様はまたこの様なことをする気か。」
「そうですね。…必要だと思えば。」
「この馬鹿者。お前は軍師だろう。まぁまだまだ使い物にはならんがな。」

一言多いんだよこの人はと心の中で思い、静かに溜息を吐く。
茶化したり出来る雰囲気ではないのだ。

「それでも、お前が相手の手中に落ちるとなれば、こちらの士気は下がり、相手に策が漏洩するおそれもあるだろう。」
「言い分は分かりました。」

これでも1年と数ヶ月は彼の元で弟子として働いてきている。
彼が言いたいことなど言葉の裏を読めばすぐに分かる。
大体、この人は不器用なのだ。認めている相手でもそれを態度の表せない。だから、もし自惚れ出なければ、この言葉は私のことをちゃんと軍師として見てくれているからこそ出てきたのだと思う。

「お前が死んだら、あの部屋は誰が片付けるんだ。」
「・・・何てこと言うんですか!今、すごーく真面目な話でしたよね。」
「真面目な話であろう。」
「私は女官じゃありませんよ!」
「その女官に言ったそうじゃないか。『この部屋のものに触るな』とな。」
「・・・。」
「ならば、お前がやるしかあるまい。それとも、私に片付けさせるきか。」
「ま、まさかー…。でも、あれは勝手に片付けられると場所がわかんなくなるし。」

あぁ、なんであんなことを言ってしまったのだろう。
今更だけどと思いつつも、今更ながらに後悔している。

「司馬懿!!」
「上司を呼び捨てにする奴が何処にいる。」
「さっさと弟子を取ってくださいよ。」
「お前のこともしぶしぶ引き受けたのだ。ここ数十年はないと思え。」

二人は文句を言い合いながら城への道を進む。
喧嘩するなら別の人の馬に乗れば良いのに、迷わず司馬懿の馬に乗る
文句を言いつつもから目を離さず、最後には自分の手の中に収める司馬懿。

いったい勝者はどちら。



後書き
無双がしたくなる今日この頃。