12月8日

ピラカンサ
― 愛嬌 ―




「いらっしゃいませー。」

明るい笑顔と声で出迎えられる。

「先生じゃないですか!」
「やぁ、ちゃん。元気やったか?」

こちらも笑顔で返し、「いつもの。」とメニューを返すと、ちゃんはさらに笑顔を浮かべ奥の厨房へと入っていった。
そしてすぐに出てきたちゃんは店内の机を行ったり来たり、大忙しだ。
どんなことに対しても笑顔で接して、そんな彼女の笑顔が見たくてこの店にやってくる客が増えているらしい。看板娘とはこのことだ。

「はい、おまたせしました!」
「ん?あぁ、ありがとな。」
「いえいえ。」

暖かい定食に舌鼓しながら、またちゃんの後を追う。
食事の終わった人に珈琲を持って行き、お冷のおかわりを注ぐ。常連の客と話をしながら、あちらこちらのテーブルを移動するその姿はまさに蝶のようだ。

「…詩人になった気分や。」
「なにがです?」
「うぉ!ちゃん!」

突然のことに変な声が出てしまった。彼女は狼狽する私を見て、クスクスと嬉しそうに笑った。
花が咲くような笑顔とはこのことかと目の当たりにする。…またや。これ以上、クサい言葉が頭に浮かぶ前にちゃんへ声を掛けた。

ちゃんはお仕事いいんか?」
「休憩です。」
「そうか…なら、なんで。」
「私、先生のファンなんです。」
「へ?」

まぬけな返答に彼女は照れくさそうに微笑み、私の代表作でもある本を差し出し「サインお願いします。」と言うと、休憩中だと言ったのにも関わらず逃げるようにして店のドアを開いた客の元へと行ってしまった。
この店に初めて来たときから、もう1年。…身近にファンはいるものだと思いつつ、表紙を捲りサインをした。

『看板娘さんへ  有栖川有栖川』



後書き
えーっと愛嬌商売ってことで花言葉はクリアさせて頂きます。