12月10日

山茶花
― 理想の恋 ―




「理想と現実は程遠い。」
「勝手に悟らないでくれるかい。」

呆れながらもちゃんと私の呟きに返事をしてくれる。更には特製のコーヒーまで淹れてくれた。
それでも、私の長年していたイメージ像とは程遠いかった。

「おいしい。」
「当たり前だ。分量、調合。全て追究されているんだ。」
「はいはい。」

適当にあしらい、コーヒーを飲むとやはりとても美味しかった。
大げさに溜息を吐いた彼は、また何かの資料を見て自分の世界へと旅立っていく。
私はそれを見ながら、与えられたコーヒーと持ち込んだガトーショコラを摘みながらその姿をぼーっと見ている。
私たちは一応は恋人という仲であるが、人並みのデートと言うものを送ったことがない。
友人にそのことを話せばよく付き合ってるわねーなんて言われる。何だかんだで彼との付き合い始めて2年。最近では好みが変わったの?とまで言われる始末。
好み。
確かに私の理想の彼氏像とは彼、湯川学は程遠いほど違うのだ。
例えば、デートは週に1回。とは言わないがせめて2週間に1回はどこかへ出かけたいと思う。
ランチやディナーならば近場でも美味しいところで週に3回ほど。毎日連絡がないと淋しくなるし、ほっとかれるのは無理だった。

「それなのに…。」

はぁーと溜息を吐くが、書類に夢中な彼は気付きもしない。
内海さんと言う可愛い感じの刑事さんが彼の嫌いな「ありえない!」と言う言葉を発した怪奇事件。
今、ワイドショーで持ちきりのあの事件だ。
とは言え、私にはこれっぽっちも関係がない。確かに、今までも怪奇事件と言われるものを解決してきた彼と付き合いはしていたが、それに対して私がしたことと言えば、3ヶ月ぶりのデートが図書館や事件現場付近の調査に変わったり、あまりの放置さに腹を立てた私がこの帝都大に乗り込みこのソファーの定位置をゲットしただけのことである。
昔の私が居たら何と言うだろう。
きっと腰に手を当てプリプリ怒りながら「さっさと別れなさい!!」なんて叫び続けるんだろう。

「あぁ。嫌んなっちゃう。」

溜息がポツリ。

「何が嫌になるんだ。だいたい、君の行動は不可解すぎる。」
「…聞いてたの?」

聞いていないかと思った。と呟いた私に、書類から目を上げた彼は呆れた視線を送る。

「聞いてたんじゃない。聞こえたんだ。君の独り言は声が大きすぎる。普段の声量と変わらない。よって、聞こえていた。寧ろ聞かされたが適切だな。」

嗚呼。これだから…。緩む口元を隠すようにコーヒーを飲もうとしたが、中が空っぽ。仕方なく、そーっと手を伸ばして湯川のマグカップを取る。口を付けて…。

「…酸味が強い。」

立ち上がった湯川は私のマグカップを手にすると、コポコポと音をさせてコーヒーを注ぐ。

「ねー。これ不味い。」
「それは僕のだ。君のはここに用意している。」
「私の?」
「そうだ、君は酸味のある豆は嫌いだろ。」

あぁ、ホラ。こう言うところが好きなんだ。
理想とは程遠いけれど、こう言う優しさがあるから私は湯川の側に居る。
昔の私に「さっさと別れなさい!」って言われても、「こう言うところがあるから無理。」って言うんだろうな。
私専用のコーヒーの香りを楽しみながら、フッと笑みを零した。



後書き
日々、理想と現実に打ちのめされてます。