12月19日

モチノキ/Font>
― 時の流れ ―




「変わったわね。」
「・・・。」
「角が取れて丸くなったみたいだわ。」
「…お前もだろ?」
「そう言うところは変わってないわね。」

クスクスと女が笑い、バーテンダーに注文をする。男の席から右に一つ空けた席へ腰掛ける。
店内には騒がしいほどの人が居るというのに、カウンターに腰掛けているのはたった二人だけだった。

「あいつらとまだ、連絡を取っていたんだな。」
「それを言うならあなたこそだわ。」
「俺のは調べようと思えば誰だってわかる。」
「でも、アポも取らずに社長に電話しても取り次いではもらえないでしょう?」
「・・・。」
「私は時々ね、連絡貰ってたの。」

男は返事の変わりに、眉間に皺を寄せると氷が溶けて不味くなった酒を飲み干した。
変わってないと女は思う。
不機嫌になると昔から眉間に皺が寄った。
男と女。この二人の友人でもある男から、目の前の男が財閥のお嬢様と結婚すると聞いたのはつい先日のことだ。
その男と別れたのは7年も前のことだが、つい先日のように思えて、クスリと笑みがこぼれた。

、お前は?」

女は動きを止める。
。自分の名前を呼ばれたことに気が付き目をただ丸くする。
しかし、すぐに表情を変えると「一緒のでいい」と呟きグラスに残っていた酒を煽る。

「ねぇ、景吾。忍足さんに会った?」
「あいつなら、朝早くから押しかけてきやがったよ。」
「成る程、サボらないようにチャックされてたわけね。」

その様子が頭に浮かんで、女は思わず笑みを零した。
ちょうどタイミングよく運ばれたグラスは真っ白なお酒が注がれている。
ホワイト・レディ。
ジン・ベースのこのお酒はブランデー・ベースのサイド・カーが元になっているといわれている。
また、ジンをウォッカに替えるとバラライカ。テキーラならマルガリータになる。
そんなベースが違うだけで楽しめるこの酒を、まだ未成年にも関わらず気に入ったのだった。
景吾の前に置かれているグラスは透明。
同じものでと言ったにもかかわらず、目の前にある物が違う。まさか、この男は私があの日、ホワイト・レディが好きだと言ったことを覚えていたのだろうか。

「覚えてたの?」
「あぁん?お前、俺様を誰だと思っている。」
「…変わらないわ。」
「お前こそ、変わってないだろ。ホワイト・レディが好きなんてな。」

クッと片方の口元を上げた笑い方は、どこかのボスのようでそんな笑い方も変わっていないとグラスに口を付けた。

「それ、なに?」
「当ててみろ。」
「そうねー、ギムレット。」
「…まだ、早すぎる。だろ?」

その返答にクスクス笑い、フと昔のことを思い出す。
そう、こう言うやり取りが楽しかった。
悔しいけど、頭もいいし、運動神経もよし、カリスマ性もあった景吾は氷帝学園の生徒会長として活躍した。
私も氷帝学園では唯一、跡部景吾と主席争いが出来る女として認知されており、副会長として活動をしていた。
景吾の頭の回転のよさに惹かれたのだ。いや、この場合未だに惹かれていると言っても過言ではない。
景吾と別れて、それなりに付き合ってきたがここまで私との口遊びを楽しめるような人間には出会えなかった。それは心の片隅で、この男と比べていたからだろう。

「おい。」
「なに?」
「俺様をここまで待たせたんだ、言うことがあるだろ?」

ニヤリと笑った口元は戦わずして私の負けを教えた。



「ギムレットがいいわ。」
「あぁ。俺らにはちょうどいいだろ?」



後書き
ギムレットにはまだ早いって結構有名ですよね?使ってみたかった台詞です。