12月20日
セントポーリア
― 深窓の美女 ―
あの禁止令が解かれてから、数日。
ここが引き時だと見極めたは、武官を止め、宮廷から雅真の姿は消えた。
「武官を辞めたというのに、なんでまたここにいるんだい。」
「まぁ、藍将軍ったらここは後宮でございますわよ。」
窘めながらも、その口元はゆるく緩んでいる。
なんとなく、後宮への回廊を歩き始めた時、曲がり角から女官が飛び出してきた。
突然のことではあったが、抱き留めて声を掛けると聞き覚えのある声が返ってきたのだ。
驚いて顔を見ると、数日前まで武官として働いていた雅真、もといだ。
そして冒頭に戻る。
「で、なんでいるんだい。」
「まさか、元上司にこんなところでお会いするなんて嘆かわしい。」
「!」
「花嫁修業に決まっているではありませんか。」
「…花嫁。」
「そうですわ。」
にこりと笑ったは楸瑛の体をクルリと来た道へ向け背中を押しながら歩く。
「ほらほら、さっさと返ってくださいませ。」
「だ、誰の花嫁に」
「藍将軍、私の仕事増やさないで下さいね。」
微笑んだ彼女は、あの禁止令を出した時と同じように目が笑っていなかった。
結局、誰の花嫁になるのかと言う大事なところを聞くことが出来ずモヤモヤとしたまま過ごしていた。
主上にそれとなく話を聞けば、お茶を入れるのが上手で頑張った時には可愛らしい花茶を淹れてくれるそうだ。羨ましい。
さらに久々に羽林軍の練習場へと足を運べば、みな熱心に練習に励んでいる。
何事かと両大将軍たちの姿を探すが、姿も気配もない。
ならば、何故と休憩して話している二人組みの男の背に周り耳を澄ます。
「あぁ、今日はさんはいらっしゃならいのかな。」
「さんがここに差し入れを持って来てくれるようになって、自然と練習に力が入ってるよな。」
「お前もだろ。」
「いやーあんな美人がここに来るなんて思ってなかったしな。」
「でも、あれだろ?」
「噂のことか?」
「あぁ。」
「誰なんだろうな。」
「俺たちなんかじゃ、相手にされないだろうけどな。」
。
その名前はこの後宮に入り女官として働き始めた、あののことだろう。
まさか、もと同僚たちに差し入れをしていたなんてこれっぽっちも気付かなかった。
この同僚たちにも花茶を振舞っていたのだろうか、前までは自分一人の筈だったのにとすこし衝撃を受けながら帰路へついた。
「楸瑛。」
「…。」
「何をぼさっと立っているの。中にお入り下さい。」
気付けばそこはの屋敷の前。
それなりの地位の娘であるには治安のいい地区に屋敷が用意されている。
「申し訳有りません。まさか人が尋ねてくるなんて思っていなかったから使用人にはすべて暇を出してしまって。」
「いや、いいよ。」
「それより、どうかしました?」
あの人同じ様に卓を囲む。
カチャカチャと音を立てて茶器の準備をする。
大勢の人に振舞った花茶を同じように自分にも振舞うのだろうか、そう考えると癪で「花茶以外でお願いできるかい。」と口にしてしまった。
「…ホントにどうかしたの?」
心配そうな表情のは、昔と同じように話しかける。
「噂を知っているかい?」
「…噂?」
「あぁ、君の花婿が誰か噂になっている。」
「あら、面白いわね。」
ふふっ、と笑うを見てさらに苛々が募る。
「それで、誰なの?」
楽しそうに聞いてくるを見ながら、どうしようかと考える。
噂は聞いたが、その相手のことについては少しも耳にしていない。
「…私だ。」
「あら、当たってるじゃない。」
仕方なく嘘八百の大博打だと思って、出した答えはすんなりと彼女に肯定される。
「なに言って…。」
「私が、23になっても結婚出来なかったら、貰ってくれるのでしょう?」
やはり、この昔馴染みの方が一枚上手だと苦笑しながらも手に入れた華を見てその髪に口付けを落とした。
後書き
一応、12月14日の花夢の続編と言うことで書きましたが、…分かってもらえたのでしょうか。ちょっと不安。