無邪気なままの熱で、
避暑地の別荘へお邪魔しているはずなのに、それでも暑さは変わらない。
「暑いね。」
「・・・。」
「何とか言ったらどうだい?」
「ナントカ。」
「・・・。」
「イタッ!」
何とか言えって言ったから、ナントカって答えたのに頬を抓まれてしまった。
この我が儘お坊ちゃまめ!
大体、暑いのも私たちがピッタリくっついているからであって。
それも私は離れたいのに相手が抱きしめているせいであって。
つまりは、私には何の非もない。
「暑いよ。如何にかしてくれないか。」
「…離れたら涼しいと思いますけど。」
「それじゃ、ここまでわざわざやって来た意味がない。」
「・・・。」
別荘へやって来た意味ってなんですか!
私はてっきり避暑地への逃亡かと思ってたんですけど…。
「そんな訳ないだろ。そんなのだったら家で冷房をかけていた方がよっぽどマシだよ。」
「・・・。」
「それなのにわざわざこんな山奥まで来たんだ。」
ここまで言えば分かるだろ?と言われましても、何を言いたいのかさっぱり。
寧ろ何故私の疑問が分かったのか凄く気になる。
読心術でも使えるようになったのだろうか…怖いな。
「お前の頭の中なんて簡単に読めるさ。」
「!」
まただ。
とうとうこの人は人でなくなってしまっている。
「お前が分かりやすいだけだろう。それに、随分失礼なことを考えているじゃないか。」
耳元で囁く声が一段と低くなる。
こう言う声を出す時は機嫌が悪くなる一歩手前。こんな時は、先手必勝!
「ご、ごめんなさい!」
「・・・いいよ別に。」
抱きしめていた先輩の手をほどくと立ち上がり頭を下げる。
返答は意外にも優しいもので、でもどこか拗ねた声で。
「…やっぱり怒ってます?」
「怒ってないよ。」
「それじゃ、なんでそんなに拗ねてるんですか?」
率直に言えることが私の美徳だと人は言った。
でも、その美徳は時に災害を招く。
「誰が拗ねてるって?」
あぁ、私が踏んだのは、地雷だった。
すっと目を細め睨まれる。
「だって、…声が。」
「声が、どうした?」
「なんだか、拗ねてたから。」
「ふーん。それで?」
「それでって?」
「俺が拗ねてたらお前はどうしてくれるの?」
「どうって…」
「何もしてくれないの?。」
・・・卑怯だ。
ここで名前を呼ぶなんて卑怯だ。
ここまで計算してやっているのだから性質が悪い。そこまでわかっていて、逆らえない私がいる。
「何して欲しいんですか?」
「自分で考えろよ。」
これだ。この人はそう言う人なのだ。
勝手に怒って、勝手に拗ねて、勝手に納得して、私が悩んでいる姿を見ることが一番好きなのだ。
「・・・。」
分かるわけがない。
だってこの人は私より大人で、柚木家って名を背負っていて、それなのに絶対甘えないから。
ぐるぐる考えていたってわかるわけないので、ギュッと先輩の胸に飛び込んだ。
「何がしたいんだい。」
呆れた声で話しかけられる。
触れてくる先輩の手は冷たい。
「先輩、体温低いんですか?冷たいじゃないですか。」
「お前、馬鹿?子供のほうが体温が高いに決まってるだろ。」
つまり、私が子供だから体温が高くって、大人な先輩が普通ってこと?
・・・馬鹿にされてる。
「気付くのが遅いよ。まったく。」
胸に押し当てていた顔を持ち上げられ、向かい合う。
優しい顔。表情。声。…もう拗ねてない。
「お前は余計なことを考えなくてもいいんだよ。」
「・・・。」
「これで十分だ。」
触れるか触れないかの優しいキス。
「先輩…」
「二人っきりの時は名前で呼べって言っただろ。。」
「…梓馬。」
また顔が、唇が近づく。
熱が唇を通って梓馬を溶かす。
僕を溶かして。
(だから君は子供のままでいて)