「遅いわねー。」
一人呟く。膝にじゃれついてくる猫たちは皆バッチリ準備済み。勿論、自分も準備OK。
あとはこの部屋の主が帰ってくればいいのだけど…。
首を長くしてドアを見るが人の気配はない。
「はぁー君らのご主人は今日が何の日か知らないみたいだねー。」
ヴァンパイヤの格好をしているウリを持ち上げ、ねー?と視線を交じ合わせる。
一方、同じヴァンパイヤの格好をしているコタは床に置いてあるジャック・オ・ランタンに興味津々だ。モモは女の子なので私と同じ魔女の格好。全て私の手作りだったりする。
ガチャ。
鍵を開ける音。待ち望んでいた家主のご帰宅に猫と共に玄関へ駆け出す。
一番最初に着いたウリはご主人にじゃれている。コタはのそっと顔を出し、モモは私とともに到着。
「…なんの冗談だ。」
「第一声がそれ!」
呆れた顔でこちらを見てくる火村。
「ハロウィンでしょ?だから、」
「あぁ、アレか。」
…なんだ。この反応の薄さ。
元々テンションの低い奴ではあったけれど、これはあんまりだろう。もう少し、感想を取り繕うとは思わないのだろうか。
仮にも、可愛い彼女が!とまでは言わないが、可愛い愛猫たちの格好についての感想でも言えばいいものを。
「お前が作ったのか?」
「え?…うん。」
おぉ!ようやく反応を示すかと期待したのに、火村から出てきた言葉は期待とは裏腹のものだった。
「暇人だな。と言うか、お前は恥ずかしくないのか。」
哀れむような視線を向けられる。
えぇ、そうですね!どうせ貴方と同じ、34ですよ!いい年過ぎたおばさんがこんなことしてすみませんね!
口には出さないが、ブスッと膨れると睨みながら心の中で叫ぶ。
「夕食、出来てるわよ。」
「そうか。」
「えぇ・・・。」
「・・・。」
キッチンへ行こうとすればジッと見られる視線に気が付く。
猫たちはもうじゃれるのに飽きたのか、居間へと戻っている。
「何?」
「Trick or Treat?」
「…。はい?」
「Trick or Treat?」
一体なんなのだろう、嫌に発音のよい英語が耳障りだ。
私も無視してキッチンへ行けばよかったのに、足が、手が、目が動かなかった。
「なんだ、用意してないのか。」
「え、だって甘いもの嫌いじゃない。」
「それじゃ、悪戯されても文句は言えないな。」
手首を捕まれ引き寄せされる。そのまま顎を持ち上げられ噛み付くようなkissが落ちてくる。
「甘いな。」
唇が離れ放心状態の私にニヤリと微笑みながら火村が言った言葉が耳に残って離れなかった。