女嫌いの俺が、
女を買うことになるなんて誰が予想できただろうか。
買うつもりはなかった。
ただ、いつものように迷子になっていたら、聞こえたのだ。
切なく哀しい歌声が…
声につられ、歩いてゆくとそこには鮮やかな着物を着た女がいた。
見れば遊び女であることがすぐわかるだろう。
けれど、惹かれた。
歌を歌っている女から目が離せなくなった。
「ウチになにか?」
「あ、いや。」
しどろもどろになり答えると女は「おかしな人やねぇー。」とコロコロ笑った。
「旦那はウチを買います?」
「・・・あぁ。」
何故あの時頷いてしまったのか、自分でも良く分からない。
女に誘われるまま、堕ちていった。
朝。彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
小屋はガラリとしており、彼女が帰ってくる様子も感じなかった。
けだるい体を起こすと、微かに彼女の残り香が香っていた。
【遊び女シリーズ・李絳攸編】
「アラ、今晩は。」
いつも通り、花街へ通っていた。
すると何処からか歌が聞こえてくる。
切なく、甘い恋の歌。
つられるように足を向かう方向を変え、ゆったりと歩き出した。
「こんなところで美しい華を見れるとは思っていませんでした。」
「まぁ、お上手ですこと。」
「何故このようなところに?」
「旦那は華を愛でに来ましたのでしょう?」
細めた瞳に心を見透かされるように感じた。
コロコロと笑った女は私の手を取り小屋へと引いていった。
「旦那はウチをお求めですか?」
「そうだね。是非。」
その返事も込めて、唇に噛み付いた。
朝、いつの間にか女の姿は消えてきた。
仮にも武官の楸瑛に気付かれず消え去った女は何だったのだろうか。
枕元には鮮やかな花びらが落ちていた。
【遊び女シリーズ・藍楸瑛】
国を追われた者が着くのは、
世の果ての果てか、地の底の底か・・・
「それは、誰のことですか?」
「・・・今晩は、静蘭殿。」
「出来れば二度と会いたくなかったですね。」
嫌味を言ったと言うのに女はコロコロと笑う。楽しそうに。
斬りつけようと腰に手をやったが、すかりと空振り。
「あらあら、物騒なコトを…。」
「返せ。」
「王より頂いたものですものね。どうぞ。」
女の手から剣が返却される。
いったい何時、掏ったと言うのだろうか。
「劉輝に何をした。」
ピクリとまゆが顰められ睨まれる。
「何もしていませんよ。勿論、抱かれても、ねェ?」
「当たり前だ。」
怒鳴り声が響く。
クスリと笑った女は月を見上げ、呟いた。
「明日は新月ですねー。…おやすみなさいませ、静苑公子。」
ザザザッーと木の葉が揺れる音がまわる。
季節外れの花びらが舞い上がり、女は、姿を消した。
【遊び女シリーズ・シ静蘭】
今宵は新月。闇にまぎれ、訪問者一人。
「いるのか?」
「今晩は。王さま。」
「歌を歌ってくれぬか。」
女はにこりと笑い、歌を紡ぐ。
巡る巡る輪廻の果てよ。
拾い上げれぬ手で何を望む、愛しいものに別れを告げよ。
時の流れは戻せぬよう
「それは…」
劉輝の言葉により、歌は閉ざされた。
「王さま、歌は続いております。」
「あ、あぁ、すまぬ。続けてくれ。」
時の流れは戻せぬよう、過ちは消えることはないと知る。
過去は戻せぬが未来は十色。
未来を彩るは現在の君―……‥
「・・・それは、余の歌か?」
「どうでございましょう。」
「違うのか?」
「これは、王の歌で御座います。」
「・・・そうか、王の。」
沈黙が続く。
「余が、王でよかったのか?」
「皆に言われているはずです、あなたが王なのだと。」
「言われる、だが…」
「リオウが来ましたね。」
「リ、リオウを知っているのか?」
「王さま、リオウを頼みます。」
「待ってくれ!そなたは、もしや標家の…」
その言葉が、最後まで続かれることはなかった。
立ちすくんだ劉輝の足下には一房、花が落ちていただけであった。
【遊び女シリーズ・紫劉輝】
もしかしたら、続編あるかも。