「せんせー。先生ってばー。」
「・・・。」

北洋病院の立派な看護婦である私は、今、とある先生の後ろを頑張って歩きながら追いかけている。
ホント、疲れるんだよ!足の長さ違うし…。かと言って走ると藤吉先生に怒られるし…。

「聞こえてますよねー。」
「・・・。」
「先生が用意しろって言ったカルテなんですけどー。」
「・・・。」

無視無視無視。完璧無視。
その上どんどん歩くスピード早くなってない?
早歩きじゃ追いつかない、あぁ!走ってるよ私!
こんなところ藤吉先生にでも見つかったらまた怒られちゃう。見つかりませんように。

「こら!お前らはまた院内を走って!」

考えた側から落雷直撃。
先生の足はストップ。私の足も一足遅かったがストップ。

「前も言っただろう。仮にも医者と看護師がな〜…。」

あぁ、説教をされてしまった。藤吉先生ってなんだか五月蠅いお母さん、寧ろ小姑。
ってか、先生が走らなければ私は走って怒られることなかったのに…。
ムゥー、なんか最悪。
そんなこんなで藤吉先生からお小言を貰い、その後私は先生にカルテを差し出すと共に嫌味を一つ。

「先生が止まってくれれば、怒られなかったんですからね!」

嫌味の一つくらいは許してもらわなきゃ割に合わない。
それなのに先生ときたら、しれっとした顔で。

「先生じゃ誰なのかわからないんだよ。」
「な!そんなのわかるじゃないですか!」
「わからねぇー。」
「わかります!屁理屈言うのも止めてください!子供じゃないんだから…」
「俺のどこが子供だっていうんだよ!」
「そーやって意地悪なところです!」
「それを言うなら、お前もだろ。」
「先生よりかは大人です!」
「へーそりゃ面白い。」

近づいてきたのは先生の顔。そのまま、・・・!

「なにするんですか!」
「・・・。」
「あー逃げないで下さい。」
「うるせー名前で呼ばないと止まらないからな。」

私の唇を奪った挙句、逃走しはじめた先生。
って言うか、走ったらまた藤吉先生に怒られる!それに名前で呼べって…。
藤吉先生に怒られるか、それとも遠くに行ってしまっている先生に向かって大声で名前を叫ぶか。究極の二者択一。
あぁーもー。

「先生!外山先生!…誠二先生ってばー!!」

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医/龍 外/山/誠/二


君って言う人は、どうしてそう俺の心を乱すのだろう。

「せんせーありがとー。」
「あぁ、元気でな。」
「おねーちゃんも。」
「うん。りかちゃん元気でね。お兄ちゃんと仲良くね。」
「うん。バイバーイ。」
「ばいばーい。」

こうやって今日も患者が一人、この北洋から退院していく。
喜ばしいことだ。

「よかったですね。」
「あぁ、君も悪かったな。どうしても君に会いたいと言っていて。」
「いいんですよ。私もりかちゃんに会いたかったですから。」
「そうか。」

にこりと笑いかけられる。
不覚にもその笑顔に胸がドキリとなってしまう。
まったく、甘酸っぱい青春なんてものはもう過ぎてしまっているはずなのに。
この胸の鼓動は早まる一方。

「っと、もうお昼ですね。」

待合室の時計を見ながら言う君に、それはお誘いのチャンスなのかと問いたい。
あぁ、こうやってタイミングを計って、失敗しないようにと考えていること事態、君は俺にとって失いたくないものだと気付く。

「藤吉先生。」
「あ、なんだ?」
「宜しかったらお昼一緒に食べませんか?」
「あぁ。」

心が跳ね躍ると言うのはこういうときに使うものかもしれない。

「どうせなら奢るよ。わざわざ来てもらったんだし。」
「いえ。そうじゃなくって…。」

なんだか言いにくそうな君の表情。
もしかして一緒にお昼は社交辞令だったのかもしれない。あぁ、どう思われただろう。
厚かましい奴だと思われたのか…。

「お弁当、作ってるんです。」

俯いた君の頬が少し赤らんでいるのに気が付く。

「え・・・。」
「ちょっと、多く作りすぎちゃって…その、先生さえよければ。」
「頂くよ。久しぶりだな、手作りなんて。」

口はサラリとそんな台詞を言った。
でも、心はどうしようもないくらいに乱れている。

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医/龍 藤/吉/圭/介


「知りません。」
「おやおや、随分拗ねているようだね。」
「拗ねてません!」
「可愛らしいといっているのだよ。」
「そ、その手にはのりませんからね!」
「その手とは?」
「だから、可愛いとか…。」

頬を真っ赤に染めて呟くように言った君は本当に愛らしい。
そう言うところが一層私の何かを掻き立てることを君は知らない。

「友雅さん!聞いてるんですか!」
「ちゃんと聞いているよ。だからもっと聞かせて欲しい。」
「う…。」

長く柔らかな髪を一房手に取り口付ける。
ふわりと甘い香りが漂ってきて、より香りの強いほうへと顔を近づける。
髪、耳、額、目、鼻、そしてふっくらと桜色した唇。

「と、友雅さん!近いんですけど!」

慌てている声が聞こえる。頑張って私の体を押し返そうとしているのか胸元に小さい手が添えられていた。

「甘い香りがするね。」
「へ?」
「私を誘惑させる香りだ。」
「なに、言って…。」

逃がさないように両手を絡め取り、抱きしめる。
甘い香り。
ふわり、
  ふわり。酔ってしまいそうだ。

「友雅さん。あの、恥ずかしいです。」

そう言って逃げようとする君の唇に口付ける。
そして、真っ白で目が眩みそうな雪肌の首筋に紅い痕を残す。
そう、これは。

「私のものだよ。」

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遥かなる時空の中で1 橘友雅


「ごめんね。今日はちょっと…。」
「ううん、気にしないで。また一緒に行こう!」
「ありがとう。今度は予定空けとくから。」
「うん、じゃーね。」
「バイバイ、青子。」

青子を筆頭にいつものメンバーがHR終了後の騒がしい放課後の教室から出て行った。

「なんだ、今日は一緒じゃねーのか。」
「あ、快斗。」
「今日は駅前のなんとかって言う喫茶店に行くんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、ちょっとね…予定出来ちゃって。」

苦笑して返すと快斗は揶揄うような表情を見せてきた。

「男か。」
「うるさいなー。」
「はいはい、そんじゃな。」
「うん。また明日ね。」

そうやって快斗も教室から出て行った。
次々と別れを言って、連れ立って帰るクラスメイトを見送り、静まり返った教室にポツリ佇む。
自分の席に座ったり立ったり、ちょっとした好奇心でアイツの席に座ってみる。
キョロキョロと辺りを見渡して、廊下のほうへ耳を澄まして、誰もこちらに近づかないことを確認する。
そして、持っていたシャーペンで机に落書き。

「・・・良し。」
「何が良しなんですか?」
「うぎゃ!」

頭の真上から聞こえた声に思わず変な声を出してしまう。
顔を上げれば苦笑しているあいつと視線が交わり、恥ずかしさで顔が火照る。

「白馬、いつからそこに。」
「ついさっきだよ。」
「でも、」

でもでも、ちゃんと確認したよ。耳まで澄ませたんだから。

「足音くらい消せるし、君は後方への注意が散漫だったしね。」
「こう、ほう?」

後方。うしろ、…ゆっくりと後ろを振り向けば教室と廊下を隔てる扉は開いている。
うわーやられた。
それに、足音を消せるって…コイツ何者なんだろう。

「君の恋人だよ。」
「そうじゃなくて!」

笑っている自称私の恋人に、(いや、自称じゃないんだけどね。)頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。

「『白馬が好き』か…可愛らしいね。」
「!」

忘れてた!
一生の不覚!
またこいつの口車に乗せられて大事なことを忘れてたよ!
あぁ、告白じみた言葉を書いていたことを見られるなんて!それに口に出して読まれたし!
もう、あぁ、穴があったら入りたい。

「いつも言っていると思うけど…僕も好きだよ。愛してる。」
「恥ずかしいからやめて!」
「でも、出来れば苗字じゃなくて名前がいいな。」

そっぽ向いていたら後ろから抱き着かれて動けなくなる。
う・・・また後方不注意!やられた!

「ほら、名前で呼んでくれないか。」
「…っ、さ、さぐ、さぐ、探。」
「よく出来ました。」

真っ赤に耳まで染めた君に、ご褒美の甘いキスを…。
もっと君が真っ赤になったのは推測どおり。

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名探偵コナン&まじっく快斗 白馬探


「何をしているんだ。」
「うわ。あ、あ、あぁぁぁ!!」

グラついた私の体はニュートン見た林檎のように下に落ちていく。
下に、下に…あれ?痛くない。

「怪我はないのか」
「あ、湯川先生。こんにちは。」
「あぁ。それより怪我は?」
「ありません!ありませんとも!」
「そんなに何度も言わなくてもわかっている。」

めんどくさそうに言った先生は「それよりも早くどきなさい。」と呟いた。
よくよく見れば、私は湯川先生の上に乗っていて、顔を上げれば湯川先生の顔と急接近。

「うわっ!」
「なんだい、人の顔を見て驚くのはマナー違反だ。」
「だ、そ、湯、あ、な!なんでもないです!」

しどろもどろになってしまった私の声を聞いて更に湯川は眉を顰める。

「なんだ。気になる、言うといい。」
「いや、ほんとに。なにも…。」
「ほー、君は助けてもらったのに御礼もしないのか。」

チクチクと人の弱みに付け込んでいく。
汚いぞ!それでも教師ですか!なんていっても無駄だと思い諦めてポツリ。

「ち、近くないですか?」
「君が早く退ければいい話だ。」
「ご尤も。」

ほら、これだから言いたくなかったんだ!
私がどければいいんだと思うよ。でもさ、気付いちゃったんだよ急にうわっ!近っ!て。
そんなこと改めて意識するとドキドキしちゃうわけで、先生の顔にちょっとだけ目を奪われて立って言うのも嘘じゃない

「なら、退きたまえ。」

なんて偉そうな!
だいたい先生がいちいち突っ込むからこのままの状態だった訳で。突っ込まなければ私は退けていたんだ。
なんて、心の中で悪態吐く。

「それでは、ありがとうございました!」

半場叫びつつ、ドキドキとなる不整脈を抑え、私は資料図書を抱えて資料室を後にした。
そんな私の耳に届いたのは楽しそうな貴方の声。

「君は本当に面白い。」

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ガ/リ/レ/オ 湯/川/学


「何処に行くんだ。」
「リオウ・・・ごめんなさい。」
「別に謝らなくてもいい。」
「・・・私、外に行くわ。」
「・・・・・。」
「死んじゃうかもしれないけど。」
「なら、何故?」
「恋を、してみたいの。」

微笑んで檻から出て行った彼女は、一年後に命を落とし帰ってきた。
その死に顔は、出て行ったときと同じ微笑。
彼女の願いがかなったかどうかは定かではなかった。

カシャン。
彼女遺体の懐から簪が落ちた。
玉の色は・・・‥…

「なんで僕を好きになってくれなかったんだ。」

いまさら言っても届かない。
 けれど、いまさらだから言える言葉。

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彩雲国物語  縹リオウ


「おい。」
「何か用ですか?火村センセ。」
「わかってやっているだろう。」
「もちろんさー。」

下宿先でレポートの採点を続けている火村英生。
その背中を見ながら桃、ウリ、コタの3匹とじゃれ遊んでいる私。

「お前な。」

疲れる溜息。その溜息に心の中でガッツポーズ。
この火村という男、一応私の彼氏なのだがその彼女よりも猫のほうが好き。
と言う特殊な奴なのだ。
つまり、私が「構って!」と言うよりも猫を味方につけて「ニャーニャー」と鳴いてもらうほうが効果がある。

「・・・・あぁ、わかった。休憩だ。」

火村が出した白旗に私と猫は大喜び。
じゃれついてくる猫に「後でな。」と言い、ポイと部屋から追い出す火村。

「へ?なんで?」
「遊んで欲しいんだろう。煽ったお前が悪い。」

噛み付くようなkissが降る。

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作家シリーズ 火村英生


桜チルチル。春一風。

「楸瑛。探したわ。」
「探してくれたのかい。」
「当たり前よ。」
「桜に見入っていたようだけど?」

気のせいだったかな?と意地悪く笑えば、ぐっと言葉を詰まらせ視線を逸らす。

「さぁ、帰ろうか。」

差し出された手を取り、握り返した。
同時に強い春一番。あまりの強風に目を閉じる。

「きゃっ。」

桜の花びらが渦を巻いて飛んでいった。

「あーぁ。散っちゃった。」
「あぁ。でも、いいよ。」
「なんで?」
「大切な華はここにあるからね。」

ぎゅっと抱きしめられ、頬に口付けられた。

桜チルチル、春一風。

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彩雲国物語 藍楸瑛


春。
春。花咲く、花降る、花舞う。

「花見日和ね。」
「あぁ。」
「それにしても、迷子性質の絳攸が迷わないなんて。」

クスクスと彼女は笑った。

「ここには良く来るんだ。」
「ふふっ、迷子性質は認めるのね。」
「う・・・まぁ。少しは。」
「ふふふ。それで?これからどうするの。」
「・・・・・。」
「絳攸?」
「・・・・・・・った。」

急に小さくなる声。

「なに?聞こえないわ。」
「考えていなかった。」

予想だにしなかった回答に彼女は目をパチリとする。

「・・・・っふふふ。絳攸らしいわね。」
「悪かったな。」
「悪くないわ。ほら、それならお昼にしましょう。」
「弁当か。」
「えぇ、私が腕によりを掛けたんだから。」

春。花咲き、花降り、花舞て―――――
  愛しき人と手製の弁当。少し近い未来の夫婦の春。

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彩雲国物語 李絳攸