扉を開けて中に滑り込むように入る。薄暗い中は人一人が通れるほどの道が続いていた。
足元に気をつけて先へ進むと、奥からほんのり明るい光が漏れている。

「おはよう。」
「主人か。」
「ウー、ソールも元気にしてる?」
「ふん。」
「やだ、なに拗ねているのよ。」

こちらに顔を向けないソールはムスッとした声を出している。
苦笑して、持ってきたベリータルトを目の前に置くと耳を動かせこちらを窺うように見てくる。

「手作りじゃないけど、美味しいわよ。」
「ふーん。…うめぇー!ありがとな!また、持って来いよ。」

機嫌がよくなったのか尻尾がパタパタと揺れていた。
現金な奴…。
周りを見渡すと、通路は狭かったがここはそうでもないようだった。
暖炉もあれば、ソファーもある。隅には簡易キッチンもあり、数日ならここで生活できそうなくらいだ。
備え付けの柱時計に目が行き、時間を見るあと5分で授業が始まることに気が付く。

「それじゃ。私行くわ。」
「主人!合言葉は何にする?」

慌てて出て行こうとして、ウーに呼び止められフト思考が止まる。

「私が決めるの?」
「そうだ。」
「そうねー。」

パッと出てきたのは星。

「”スピカ”なんてどう?」
「了解した。」
「それじゃね。」

走る走る。
隠し部屋を出て、談話室を出る。目指すは地下の魔法薬学の教室。
ぎーッと音を立てて扉が開く。
よかった。まだ授業は始まっていないようだった。
教室を見渡すとリリーが大きく手を振っていた。

「ごめんなさい、ありがとう。」

席を取っていてくれたことに感謝を述べると「それくらいどうってことないわ。」と笑顔で返される。

「大丈夫だった?」
「ちょっと。迷ってしまったけど、平気よ。」
「そうよね。ごめんなさい、私が待っていればよかったのに。」
「いいのよ。私が、先に行くように言ったんだから。」

その時。
バンと大きな音を立てて教務室の扉が開く。
出てきたのは陰険そうな男性教師、苦々しそうな表情でこちらを見ていた。

「遅れてきたのにおしゃべりな奴がいるな。」

男性教師はこちらを見るのも嫌そうな表情で言ってくる。
合同授業になるスリザリン寮からはクスクスと失笑の嵐。

「ミス・。君のことを言っているのだよ。」
「それは、申し訳ありません。」

反省の意味を込めて軽く頭を下げる。

「ミス・エヴァンス。君が責任を持ってここまで連れてくるのが礼儀じゃないのか。」
「お言葉ですが、教授。私はエヴァンスに先に行くよう奨めました。ですから、エヴァンスには非はありません。それに…、ここまでは血みどろ男爵がご一緒してくださいましたから。」

きっぱりと言い放ったに教室がざわめく。

「口が過ぎました。どうぞ、授業を始めてください。」

席に着き、羊皮紙と羽ペン。教科書を広げるとニコリと笑い教授に促す。
後味が悪いのか教授は教壇に立った後は、こちらを向こうともしなかった。
腹いせとばかりにピーターやリーマスに当たっていたようだったので、後で謝っておこう。
リリーを含め、何故かチラチラとこちらを窺うような視線を感じ、不愉快ではあったが遅刻した上に教授に大きな口を叩いたせいだと思い、今日だけだと我慢する。
とにかく、それ以降はコレといった事もなく(ペーターとリーマスの方からあり得ない刺激臭が漂ったのはいつものことらしい)授業は終わり、バラバラと教室を退室して行った。



「あの。?」
「なにかしら?」
「その…あなたがさっき教授に言っていたことなんだけど。」
「えぇ、それがどうかしたの?」
「どうかって!ホントに血みどろ男爵が送ってくださったの!」
「そうよ。間違ってスリザリン寮へ行ってたみたいで…それで。」
「それだけ?」
「当たり前でしょう。あぁ、少し会話はしたけど。世間話程度よ?」
「・・・。」
「さぁ、次の教室はどこにあるのかしら?」

リリーの一歩先を行きながら、は振り返り尋ねる。
階段を上がっていった二人を見ながら、口笛を吹くものが一人いた。

「男爵閣下相手に凄い度胸だね。」
「教授にも毅然とした態度だったしね。」
「凄いなぁー。」
「あぁ・・・。」

覇気のない返事をしたシリウスはボーっとの消えた先を追っている。

「おやおや、パッドフッド。君はに一目惚れかい?」

ニヤニヤとした顔を浮かべジェームズは続ける。

「確かには美人だ。」
「違う。ただ・・・どっかで聞いたことがあるんだ。」
「なるほどなるほど。なんて言ってもリリーの友人だ。可愛いわけがないもんな。」
「だから、誰がそんなこと言った。」

考えるのを止めたシリウスはニヤニヤ顔のジェームズを押し退けると教室へと足を進めた。




11話。
まだまだ本番には入りそうにない。