calling



「はい、です。」
「無防備に電話に出るんじゃない。」
「携帯の表示を見て取りましたよ。」
「屁理屈だな。」
「うるさいですねー何ですか一体。」
「やけに突っ掛かるな。」
「別に普通ですよ。もしそんな風に感じるんならそちらに疾しさがあるんじゃないんですか?」
「ほーぅ。」
「へー」
「・・・怒っているのか?」
「さぁ?」
「はぁー・・・悪かった。」
「なにがですか。」
「行けなくて悪い。」
「違いますね。」
「は?」
「私が怒ってるのはそんなことじゃないです。」
「他に何かあったか?」
「えぇ。先生が来れなかった理由は?」
「あー」
「フィールドワーク。ですよね?」
「ああ。」
「さて、何で私が知っているんでしょうか。」
「アリス。」
「正解!なんでアリスさんから教えてもらうんでしょうか。」
「アリスが教えるからだろう。」
「はぁーそうですけど。」
「だからなんだ。」
「何でもないです。おやすみなさい。」
「あぁ。もぅ寝るのか。」
「することありませんし。」
「そうか。」
「はい。」
「・・・。」
「・・・。」


沈黙が続く。

「先生?」
「なんだ。」
「もしかしてうちまで来てたとか。そんなんじゃないですよね?」
「馬鹿を言うんじゃない。おまえの住所を知らないのに何で来れるんだ。」
「・・・そうですね。」
「あぁ。寝るんだろう。」
「・・・。」
「・・・?」
「・・・寝たのか。」

プツ。電話の電源を落とす。
彼女の家に向いていた足をくるりと反対方向へ。
もと来た道を戻り駅へと進む。
一人悲しく歩き、駅前のコンビニを通り過ぎた。

「先生。」

呼び掛けられて後ろを振り返る。

「先生。やっぱり私の家に行ってたんだ。」
「おまえ、こんな遅くに何してるんだ。」
「先生待ちしてました。」

アリスさんから連絡貰ってたんでお出迎えでもしようかなぁって、なんて言いながら微笑んできた彼女を思わず抱き締めたくなる。

「そぅか。」
「はい。」
「送る。ついて来い。」
「はーい。」

一足先に出た俺に追い付くと片腕を絡ませてきた。

「なんだ。」
「いぇ、なんとなくですよ。」

そうして、たわいもない事を話ながら彼女のマンションの前で立ち止まる。
彼女が腕から離れてしまうと外の冷気に触れ、次第に温もりを失っていく。
彼女は一人マンションへと迎う。
その腕を引っ張って引き寄せたくなったが彼女は届くところに居らず。

「じゃーな。、おやすみ。」

滅多に出さない優しい声であいさつをする。
は振り返り驚いた顔をする。

「え。先生、泊まらないの?」

今度はこちらが驚く番。

「そういう事は言うんじゃない。」
「え?なんで?」

はキョトンとこちらを見る。まるで自分が間違ったことを言ったような感じに陥る。

「なんでってお前」
「だって、終電に間に合わないでしょ。」

・・・言われてみればそうだ。

「あぁ。そうだな。」

誘われるがままマンションのエレベーターに乗る。
1階、2階、3階、・・・上に上るごとに沈黙の時間は長く。

チン。

エレベーターから降りて駆け出す
「どうぞ。」と開かれたドア。



まだまだ夜は長かった。