世の中くだらないことで悩んでいる人が多いと思う。
もちろんその人達からすればそれはくだらない事じゃないんだろうけど。
つまり、どう言うことかと言うと、わたしもくだらないことで悩んでいる一人な訳で…。
お手をどうぞ
「なんで!」
「なにがよ。」
「なんで私が悩まないといけないのよ!」
「勝手に悩んでるんじゃない。」
「そうだけど!」
「だったら、どうしようもないわね。」
冷静に突っ込みを入れる中学以来の友人。
長いお付き合いをしているだけで鞭と言う名の言葉でビシビシ、私の扱い方は超一流だ。
「それで、何を悩んでいるのよ。」
呆れながらも、携帯から目を離すと私と向かい合う。
優しい言葉。
…お姉さん、飴の準備もバッチリですね!なんて、心で思いつつもついつい釣られてしまうのが人の性。
「あんたにだけよ。」
「!(え、口に出してないのに!)」
「それでなによ。」
「え、うん。ほら、あの…。」
「鬱陶しい。名前を出すだけでドキドキするような年頃じゃないでしょうが。」
「するんです!まだ、若いもん。」
「精神年齢のことでしょ?知ってるわよ。」
「…。」
「それで、先生がどうしたのよ。」
「なにもしないの。」
「は?」
「だから!なんにもしないの!」
きっとこのときの私の顔は真っ赤でリンゴにもトマトにも負けない自信がある。
それにしてもだ。
三十にもなってこんな相談を友人にするとは思わなかった。
でも、おかしいのだ。それなりの経験も欲望もあるだろうに、1年前に付き合い始めた彼は私に手を出してこない。
まさか。やっぱり…嫌な想像が過ぎる。
「馬鹿言わないで。そんなことあるわけないでしょ?」
「なんでわかったの!」
「顔に出すぎよ。それより、そんなに心配なら本人に聞けばいいわ。」
「聞けないから、悩んでて相談までしてるんだけど…。」
「そう。」
まさかここで見捨てられるなんて思いもしなかった。
それじゃ、と最高の笑顔で立ち去った彼女を呆然と見送り…いや、見送る暇もなく、後ろを振り返れば悩みの種のあの人。
「よう。」
「お、オヒサシ、ブリ、ネ。」
「なんで片言なんだ。」
「なんで。」
「あぁ、あいつから電話があって。ずーっと聞いていたら聞き捨てならない内容だったんでな。」
「え。」
私の頭はパニック。
なんで、あいつってつまり先ほどまでいた私の友人で。
ずーっと聞いていたって?…まさか、電話?あぁ、きっとそうだ。私の話を聞く前にこの人に電話したんだよ。
つまりつまり、聞き捨てならない内容って…私の相談事のこと?
「理解したか?」
「う、なんとなく。」
「時間がないから、単刀直入に言う。」
「うん。」
「これをやる。」
差し出され、受け取ったのはドラマなんかでよく目にするアレ。
コレっていかにも指輪が入ってますオーラが出ている。
あり得ない!と火村を見れば彼はただこちらをニヤリと笑い見ているだけ。
「…あ、え。どうして。」
「いい加減俺の物にならないかってことだ。」
「突然なんなの…。」
「随分待ち草臥れているみたいだからな。」
「でも、急過ぎだし。」
「嫌か?」
「まだ何も言ってないじゃない!」
「そうか。」
慌てた私の声に愉快そうに笑う。
手首に巻かれた時計を見ると、私の頭に手を置き、言い聞かせるように言ってくる。
「期限は今夜だ。」
「…急だって言ったのに。」
「迷うことがあるのか?」
「ないけど。」
「よし、いい返事を期待してるぞ。」
ポンポンと頭を叩かれる。
そして、「呼ばれてるから、夜にな。」とだけ言い残して火村は去って行ってしまった。
残された私は、我に帰り持っている小箱の重さを感じつつ、嬉しいやら恥ずかしいやらと複雑な気持ちを抱いている。
呼ばれていると言った。つまり、彼はもう一つの仕事で警察に呼ばれていたんだろう。
本当なら、すぐにでも事件現場に行きたいはずなのに、忙しいはずなのに…。
それでも、私のためにここまで来てくれたところ訳で、私は…。
「腹、括るしかなよね。」
ポツリとそんな台詞が飛び出す。
指輪の入った箱を大事に鞄にしまうと、勘定を済ませて家まで一直線。
きっと凄く疲れて帰ってくるはずだ。美味しいご飯を用意してあげよう。
三匹の愛猫たちには悪いけど、今夜は私がご主人を独り占め。
『おかえりなさい。指輪つけてくれないの?』
(もちろん左手を出しながら。)