やっぱりあの人には勝てないんです。



「ねぇ。なんで此処に居るのかな、私たち。」
「黎深さまに呼ばれたからだろう。」
「まぁそうだけどさー」

前で茶を啜っている男を睨みつける。
(この男はー私にもそれ位わかってんのよ!私が聞きたいのはどうしてこんな場所で私とあんたが会わなきゃいけないのよ!)

「絳攸ーなんか言うことないのー」
「黎深さまからの褒美だと思えばいい。」
「逆らえなくて来たくせに」
「なっ!なに!」
「だってそうでしょ?黎深さまに『嫌だ』って言い切ったことないじゃない。」
「うっ、」
「まぁー仕事してくれたんでしょ。珍しく」
「あぁ、今日一日だけだがな。」
「良かったわねー。悪鬼巣窟の吏部も書類とおさらばできて。」
「あぁ、お前のところもよく休ませてくれたな。」
「黎深さまがなんか取り計らってくれてたみたい。」
「そうか。」

(なに、こいつこの店のこと何も知らないわけ!)

今、と絳攸が居る店は彩七家や貴族がお見合いをしする定番の料亭だったりする。
しかし、仕事の合間に来ていると絳攸の服装は至って普通の官吏服、違うといえば料亭に来る前に黎深さまに拉致されて紅区の黎深宅で女官に化粧をされたことだ。

「あのさー絳攸。」
「なんだ。」
「黎深さまなんて言ってたの?」
「『仕事は片付けてやる。だからこの店でと昼食をとれ』だったな。それがどうかしたか?」
「いや、別に。」
「そうか」

また、茶をすする。

「帰ろっか。もう食べたし。」

目的の昼食は終わった。よってこの店にも用はないと判断して立ち上がると絳攸に止められた。

「なに?まだなにかあるの?」
「ぁ、いや、その」
「なによ。赤くなっちゃって。」
「なんでもない!」

湯飲みを持ちあげる。

「お茶。入ってないわよ。」
「・・・・・・・・・。」

さっきから飲んでいるため湯飲みには一滴も残ってはいない。
あきれながらも、湯飲みを取り上げ茶を入れてやる。

「はい。どうぞ」
「すまん。・・・・綺麗だな」
「いいのよ、・・・は?」
「・・・。」
「あのー綺麗だなってなにが?」
「お前のことだ!化粧してるだろう、だから綺麗だなと言ったんだ。別に化粧してなくても綺麗だが・・・とにかく!それ位わかれ!」
「なっ!分かるわけないじゃない!」

の顔も絳攸の顔も赤く染まり、相手の顔が見れていない。

(あーもぅ。バカバカ。いつも奥手の癖に、そぅ言うこと此処でいう?)

その後は二人でお茶して、帰った。
仕事場に、それもわざわざ私の席で優雅にパタパタと扇子を扇いでいた黎深さまを見つけると、そのまま拉致されてあったこと全部吐かされた。



そして、結局わたし達は黎深さまの策略通り数日後に夫婦となった。