王宮の外まで案内してくれた、藍将軍にお礼を言って、早々と立ち去った。







「あーなんか、鋭い人だったね。」
「品定めされているようで気に食わないな。」
苦い顔をして呟いた京の言葉に柚子が憤然とした口調で喰らいついた。
「あら、それでも京より随分色男でしたわ。」
「柚子、そんなこと言っては駄目よ。」
「でも…様もそうお思いになったでしょう?」
こちらを見上げ首を傾げた柚子の姿を可愛いな、と思いつつ藍将軍について考える。
「そうだね。喰えない人だったが色男だったかもね。」
「そうでございましょう!」
ぱっと顔を明るくし、ご機嫌な柚子は私の先を歩いた。
苦虫を噛み潰した表情で柚子を追いかける京を見て、周りの人がだれもこの子達に気付かないことに気付く。
私は本当に王都、紫州に来たんだな。

「京、柚子。二人とも宿に帰って先にお休みなさい。」
様はどちらに行かれるのですか?」
「お金をね、少し。」
「また妓楼か。」
「そうなるかな?だから先に寝ておくんだよ。」
「…分かりましたわ。行きますわよ京。」

柚子と京はしぶしぶながらも私に背を向けると、宿の方に歩き出した。
そうして二人を見届けると妓楼街へと足を運んだ。
夕方ということもあり妓楼街は男と妓女で賑わっている。男の絡みを交わしつつ大きな妓楼へと入り、店内を見渡す。

「どちらさまだい。」
「初めまして、と申します。宜しければ、今宵一晩働かせていただきたいのですが。」
「妓女が何をするのか知っているのかい?」
「はい。何だってさせていただきます。」
「何だってねー。…訳ありってわけか。」
「・・・ご迷惑はかけません。」
「二胡は弾けるかい?」
「勿論です。二胡も笛も、筝も琵琶も出来ます。」
「なら、いいよ。ついておいで。」
「ありがとうございます。」

礼を言いながら胡蝶の後を追い、突き当りの部屋へと入っていった。

「私の名前は胡蝶だよ。あんたはでいいのかい?」

ゆっくりと頷くと胡蝶は他の女を呼んでを妓女へと仕立てていった。

「化粧映えする顔だね。、そこの二胡を持って私の部屋においで。」

早々と出て行く胡蝶を追ってある室の前に着く。
二胡を横へおき、襖を開けて三つ手で頭を下げたまま挨拶をする。

と申します。よろしくお願いします。」

ゆっくり3秒の間をあけて頭を上げるとそこには見知った顔が。
ちょうどここへ来る前に王宮であった男。確か『藍将軍』と呼ばれていた。
一瞬思考は停止したが、胡蝶にうながされ二胡を手に取ると曲を弾き始める。
昼間聞いた鳥男の曲を私なりに直したものだ。
ゆっくりと淋しげな曲の中になにか一筋の光が射す。そんな雰囲気を大事に、そして最後はそんな夢のような世界がいつまでも続くようにと願いを込めて。

「秀麗殿ほどの弾き手に会えるとは思わなかったよ。」
「お褒めに預かり光栄です。」

では、と言って退室をしようとしたがギュッと手を引かれ二胡を持ったまま立ち上がることが出来なくなってしまった。

「なんでしょうか?」
「胡蝶、今日はこの子に頼むよ。」
「しかたないねー倍の額で頼むよ、藍様。」
「勿論、言い値の倍は支払わせてもらうよ。」
「さて、私は退出するよ。、後はあんたが藍様のお相手をするんだよ。」

それだけ言うと、かたんと音を立てて室を出て行ってしまった。
気まずい雰囲気が流れる。
いや、気まずいのは自分だけだけれども。自分に注がれる視線が痛く相手を見ることが出来ない。

「さっき王宮で会ったよね?」
「なんのことでしょうか。お会いしたのは初めてだと思いますけど。」
「まさか、女性を見間違えるようなことはしないよ。」
「・・・・・。」
「沈黙は肯定と取らせてもらうよ。」
「今宵のみですから。」
「ならいいじゃないか伽事はしない。ただ話がしたいんだ。」
「・・・変な方ですね。妓女を買ったのに伽を命じないなんて。」

もう駄目だと思いくすりと笑えば男からの視線も柔らかくなり次第に他愛もない話をし始めた。