「主人。」
「様。具合でも悪いのですか?」
「へっ?いや、違うよ。少しぼっとしていただけだよ。」
「本当に大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。」
「でも・・・」
「昨日帰ってきてからずっと様子がおかしいな。」
「そうかしら?」
我が名背負いし者へ
相変わらず、京は鋭い。それに容赦ない。痛いとこを構わず突いてくる。
それにしても、そんなに変?
は昨日の夜のことを思い出す。
「殿はなぜ貴陽に?」
「女性官吏にお会いしようかと。」
「それならば、貴方も官吏になればいい。」
「ふふふ、ご冗談を。それより、あの鳥男さんとはどういうご関係で?」
「・・・。」
「どうかしましたか?」
「信じたくないけれど弟だよ。」
「お、弟!」
まじまじと藍将軍の顔を見る。
確かに顔は整っている、でも。あの鳥男とこの将軍ではあまりにも次元が違いすぎる。
「弟さんでしたか。」
「何か無礼なことはありませんでしたか?」
「ふふふ、いえ、何も。とても親切な方でしたわ。」
まぁ、笛の音は少々…でしたけど。と笑えば、顔を歪ませ苦笑していた。
「あのー藍さまは、将軍ですのよね。」
「あぁ。」
「やっぱり、国武試って難しいですか?」
「…国武試?あぁ、最初の州試は文官と変わらない筆記だよ。」
「それで?」
「その次が会試。これは筆記の試験と実技。で、最後が実技1本の終試がある。」
「なるほど。」
「難しいと言えば難しいな。でも一番難しいと思うのはその後。」
「あと?」
「羽林軍のね、両大将から直々に試合が行われるんだ。」
「それは、厳しいですね。」
うーんと考え込む彼女を見る。
もう、こちらのことなんて考えておらず自分の世界に入り込んでいる。
一応、私は客なんだけどね・・・。
「楸瑛さま。女性じゃ駄目ですよね。」
「…国武試かい?」
「はい。」
「うーん。」
今度は楸瑛が考え込む。
国試はなんとかなったが、武官は体力勝負。女性にそんなことが出来るのか。
確か次の国武試は1年と半月後。時間は十分ある。
「殿。」
「はい。」
「国武試を受けてみないか?」
「・・・はい?」
「国試を女人可能にしたもののやはり女性への風当たりは強い。」
「つまり、私が女であることを使うんですよね。」
「まぁーそう言ってしまうと見も蓋もないのですけど。」
「あ、ごめんなさい。」
「いいよ。」
「どうだい?水揚げされてみないかい?」
「・・・はい?ご、ご冗談を。」
「冗談ではないよ。」
眼が本気だ。・・・逃げなきゃ。
「お邪魔するよ。」
「胡蝶・・・」
「おや、無事だったかい?」
「えぇ。」
「上がってもいいよ。」
「はい。それでは、藍さま。ごゆっくり。」
・・・逃げられた。
「胡蝶。」
「嫌がる子を無理やりなんて藍さまの手じゃないだろ。」
「…はー。」
「帰るかい?」
「…そうするよ。」
一方、とは言うと…。
胡蝶さんに感謝。
部屋を出ると胡蝶の禿だろうか、幼い女の子に手を引かれ連れてこられた部屋で化粧を落とし、着物を着替える。
着替え終わった頃、また女の子がやって来た。
手には巾着。今夜の報酬だろうか。
受け取った巾着はズシリと重い。
「こんなに?」
「はい。今宵のお客は藍さまでしたので。」
そう言えば、三倍で買ってくれるって。…ごめんなさい。藍さま。
そのまま店を出て花街を出ると京と柚子が迎えに来てくれていた。
そうして二人の夜はそれぞれ終わった。
水揚げなんて考えるんじゃなかった。
本気にする方が馬鹿馬鹿しいか。…しかし、
「さぁー行こうか。」
「今度はどこだ?」
「私、黒州に行って見たいですわ。」
しかし、予定を切り上げて早めに出発しよう。
「俺はどこでもいい。」
「なら黒州にしようか。」
二人の返事はなかった。
「殿。どちらへ行かれるのですか?」
「藍さま…。」
「昨日の返事は聞かせてもらえないのかな?」
「本気でしたの!」
「勿論だよ。必ず国武試を受けてもらうよ。」
楸瑛の眼はしっかりとを見据えており、の眼もまたしっかりと楸瑛を見据えていた。
じっくり考える。しかし、もう心は決まっていた。
「京、柚子。出てらっしゃい。・・・藍さま。私は普通でないかもしれません。それでも、宜しいですか?」
の横には少年と少女の姿があった。つい先ほどまではなかった姿だ。
驚きの顔を隠せない。
「引き返すならば今ですよ。」
「・・・。いいえ。」
「そうですか。有難う御座います。」
ゆっくりは微笑むと、楸瑛に深く頭を下げた。
同時に京、柚子と呼ばれた少年少女も頭を下げる。
「では、行きましょうか。」
「今からですか!」
「善は急げっていいますし、いきましょーよ様。」
「?あぁ、は妓名でしたか。」
「…えぇ、まぁー。と呼んでください。。」
「私は楸瑛と呼んでくれてかまわない。。」
そう言って、連れてこられたところは豪華なお屋敷。
ちょっと待って、ここ、どこさ。
「お帰りなさいませ、楸瑛様。絳攸様がお待ちしておりまります。」
「あぁ、彼女たち…彼女はここに住むことになったから、部屋を用意してくれ。」
「かしこまりました。」
「・・・楸瑛様って凄い人だったんですね。」
「まぁ、それよりさっきの子供たちは?」
「寝かせました。それで、私は何をすれば。」
「会わせたい人がいる。」
「絳攸様、ですか?」
「そうだよ。」
奥の室へと入ると物凄い剣幕で怒られた。
そして、絳攸様の目が私の姿をとらえると物凄く、ものすごーーーーーーーーく嫌そうな顔をした。
「貴様!!!俺に馬鹿王の世話を押し付けた上に、一刻も待たて、その理由は女か!!」
「まぁーまぁー。彼女は次の国武試受験者だよ。」
「初めまして、塔 と申します。」
「国武試だと?」
「えぇ、水揚げされてしまったので。」
にっこり微笑むといっそう絳攸は眉をしかめた。