「つまり、ここはもう少し簡単にしても?」
「あぁ、国武試なら、この『雪ノ妙』だけでいいだろう。」
「はい。国試の場合ならどこまで覚えるんですか?」
「そうだな・・・『雪ノ妙』『月ノ妙』『華ノ妙』は抑えておいた方がいいな。」
「そうですか。」
我が名背負いし者へ
に与えられていた室の一つで2日に一度は絳攸によって国武試への勉強が行われている。
教えることを多少躓きながらも理解し、二度と同じ失敗はしない。
そんなの前向きな姿勢に絳攸は自身が女嫌いだと忘れていた。
「・・・ところで、お前は文官にはなりたくないのか?」
絳攸が尋ねるとは意外な顔をしている。
「何故、ですか?」
「いや・・・お前なら文官に来て欲しいくらいだからな。」
絳攸の申し出にふんわり笑みを浮かべた。
「有難う御座います。でも、武官になりたいですから。」
「いや・・・」
「武官が駄目だったら、お願いしますね?」
は知っていた。
まだ、国武試が女性が受けれることになっていないことを。
楸瑛は大丈夫だと言ったが、まだ案件は通っていないのだろう。
仕方がない、女性が武器を持つなど普通の家では考えられない。
「楸瑛様と絳攸様は同期なんですよね?」
「んぁ、あぁ。あいつは国試の時にな、隣だったんだ。」
「国試ですか?」
「楸瑛から聞いていないのか?あいつは文官から武官に移ったんだ。」
「へぇーでも、凄いですね。文官と武官なのにまた主上付きって仕事が一緒に出来るなんて。凄い腐れ縁じゃないですか。」
「そうだ!腐っているんだ!」
「・・・腐って。」
には、絳攸が拳を握り締め、何故そこまでして力説するのかわからなかった。
扉の向こうに気配が動くのを感じる。この気配は藍楸瑛。
「腐っているとは酷いな。親友だろ?」
「腐って今にも千切れんばかりのな!」
「楸瑛様、なにか御用でしょうか?」
楸瑛が絳攸との勉強中に室を訪れることはまずない。
自分の部屋でじっとしている。そして、絳攸が帰った後、やって来て今日の感想などを聞いていった。
それなのに、楸瑛は絳攸のいる今、の室を訪れた。
よっぽどの事があったのだろうとは察したわけだ。
「いや、報告にね。」
「報告、ですか?」
「あぁ、絳攸。君にもだ。主上から伝達があった。」
国武試のことだ。緊張が走る。
「両大将軍がね、是非と言ってくれたようだ。主上が今回は頑張っていたから。」
「嬉しいです。本当に有難う御座います。」
「それは主上に言うといい。」
「今回は早かったな。」
「まぁ、最初から大将軍たちは賛成だったみたいだよ。それに宋太傅も推してくれたみたいだ。」
「宋太傅か・・・」
「それと、どの。一つ聞きたいことがあるのだが」
「なんでしょうか?」
「女性に年を尋ねるのは野暮なことなんだけどね。」
「いいえ。今年で21になります。」
「本当か!」
絳攸が素早く反応する。どうもが21なのが信じられないらしい。
「嘘言ってどうするんですか。」
「いや、それはそうだが・・・。」
「行かず後家だと皆さん仰います。」
「どのさえ良ければ私がいつでも」
「冗談を。」
「この常春!!」
楸瑛の申し出は途中で遮られてしまった。
「。今日はここまでだ。」
「有難う御座いました。」
が礼をして、絳攸と共に室から出て行った。
門まで見送りに行くのだろう。絳攸の迷子素質に気付いてから毎回、門まで送っていくことになっていた。
何故かあまり快く思っていない自分がいることが楸瑛は可笑しかった。
心に渦巻くこの靄はまだ名を付けずにいよう。
「楸瑛様?どうかなさいました?」
いつの間にか戻ってきたは室の入り口に立っていた。
「なんでもないよ。どうかしたのかい?」
「あの、今上陛下に挨拶をしたいのですが・・・」
「そういうと思ってね。明日、約束をしてあるよ。」
「お見通し、ですか。・・・有難う御座います。」
苦笑しながら、は頭を下げる。今日は礼を言ってばっかりだ。
「どのは律儀な方だからね。」
「もう1つ、よいですか?」
彼女はもう1つ提案をした。予想していなかったことを…