熱帯夜


山賊とか人相の悪いゴロツキ共に追われて、逃げて、たどり着いたのは藍州だった。
幼かった私は逃げ切った達成感と安心感で藍州の豪邸が立ち並ぶところで意識をなくした。

ぱちりと目を覚ませばふかふかの布団に包み込まれていた。

・・・どこ?

がばっと起きてあたりを見渡す。部屋の調度品からみてかなりのお金持ち。
自分の服を見ると、覚えのあるボロボロの服じゃなくて、どっかのお嬢様が着るような服。

「おや、お目覚めのようだね。」
「具合は悪くないかい?」
「怪我は手当てしておいたから大丈夫だと思うけど。」

え…誰?

美人、美男子なお兄さんが私の前に立ち並ぶ。
それも、金太郎飴を切ったみたいに同じ顔の同じ服装の3人。

私・・・夢みてるのかしら?

「夢じゃないよ。」
「これは現実だよ。」
「そう、私たちは三つ子なんだ。」

へー珍しい。初めてみたよ。
じゃなくて!なんで私がここに居るかってのが問題でしょーーー

「あ、あの・・・」
「君の言いたい事はわかっているよ。」
「何故ここに居るのかが知りたいのだろ?」

コクコクと頭をふる。

「私たちが拾ったからだよ。」

ふーん。私、拾われたんだー・・・って

「えぇぇぇぇぇ!!!拾われたんですか!」
「そうだよ。」
「屋敷の前で倒れていてね。」
「中々可愛らしい子だったので」
「そのまま拾ったんだ。」
「わ、私、失礼します。」

走ろうとしたら衣服に足を引っ掛けこけた。

「君、大丈夫かい?」
「平気です。」
「親はいないんだろう?」

差し出された手を借りながら立ち上がる。

「居ませんけど。」
「だったら、うちに来なさい。」
「はい?」
「名前は?」
来夏です。」
「いい名前だね。」
「今日から君は藍来夏だよ。」
「私たちのことはそうだねーお兄様でいいよ。」
「えっ、えっえぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!」







「と、こんな具合に拾われたのよ。」
「私と来夏が会ったのもつい最近だったんだよ。」
「そうなの、お兄様方に呼ばれたと思ったら、『国試を受けてくるといい』の一言で貴陽にポイです。」
「大変なんですね。来夏さんも。」
「まぁでも拾ってもらえなかったら秀麗ちゃんにも会えなかったんだしね。」
「そうね。来夏さんが居なければ女性官吏1人になるところだったわ。」
「そうそう。だから頑張って出世するわよ!」
「勿論よ!」

紅家には和気藹々とした会話が続いた。
夜も深まった頃、そろそろと解散し始める。

「じゃ、秀麗ちゃん。またね。」
「うん。明日も頑張りましょう。」

手を振って軒に乗り込む。
軒が進みだし段々と紅家と離れていく。

「君は、これからどうするんだい?」
「えぇ。今は秀麗ちゃんと一緒に頑張りたいです。」
「その後は?」
「いつまでも一緒って訳には行きませんからね。」
「・・・。」
「ただ、絳攸様のようになりたい。」
「絳攸が目標かい?」
「そうです。17歳で最年少状元及第にして今は吏部侍郎。」
「うらやましいね。」
「え?」
「なんでもないよ。」

ポツリと呟かれた言葉。
友人に嫉妬するなんて私もまだまだだね。

「あっ!着きましたね。」

軒から駆け下りこちらを見てくる。

「楸瑛様、おやすみなさい。」

そんな無邪気な顔をみるとまだこの距離でいいかと思い止まる。




あぁ、暑い夜だ。雨でも降らないかな。

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