戯れ
後宮では、ある男のせいで女官の入れ替わりが激しい。
貴妃がいないからどうにかなっているものの、女官の管理を任されている者としては、とても迷惑なことで。
今日もまた女官が1人減り、頭を抱えている女官長補佐。
そんな彼女の名は、。
これ以上犠牲者が出る前に手を打たなくては!と、ボウフラ退治に出かける。
「藍将軍!何をなさっておいでですか!」
入ってきたばかりの女官の手を取り、口付けを交わそうとしている楸瑛を見つけ駆け寄る。
女官はと言うと、サッと顔を赤らめてそそくさと逃げた。
なのに、目の前の男ときたら、こちらを見てにっこりと微笑を浮かべていた。
あー憎たらしい。
「お久しぶりですね。殿。」
「出来れば会いたくないものですわ。」
「これはこれは、釣れないことを仰る。」
「釣れなくて結構。それより、さっさと後宮から出て行ってくださいませ。」
「久しぶりの逢瀬だと言うのに…」
「どこが逢瀬だと仰るの!!」
激怒するの手を持ち上げ、その指先に口付ける。
はさっとあいている手を振り上げ楸瑛の頬を張り上げた。
…と思ったのだが、触れるか触れないかのギリギリのところで手首を掴まれていた。
「流石。腐っても将軍の座にいるだけはありますのね。」
「腐っているつもりはないのだがね。」
「いい加減、手をお放しになって下さらない?」
「折角手に入れた華です。愛でていたくなるのが男の性というものですよ。」
「御戯れを・・・」
「戯れなど」
「いつはりのなき世なりせばいかばかり人の言の葉うれしからまし」
「え?」
急な歌に拘束していた力が緩み、その一瞬を突いてはスルリと抜け出す。
軽やかな足取りで去っていくの後姿を見送るしか出来なかった楸瑛。
ふと、気付けばはこちらを見てにっこりを笑っている。
「冗談ばかりしている貴方に、あの方は落ちませんわよ。」
*→楸瑛→あの方