人はいつ死んでしまうのか



「楸瑛。お前と私、どちらが先に死ぬのかな。」
「どうしたんだい。急に。」
「そう思っただけだ。」

背中合わせに座っているからの顔を見ることはできない。
一体、どんな顔をして離しているのだろう。

「なーどちらが先に死ぬのだろうな。」

震える声。背中越しにが泣いているのが分かった。

「さぁ、武官である私の方が先に死ぬのではないかい。あぁーでも美人薄命というし、のほうが先に逝ってしまうのかもね」
「そうね。私の方が先に逝ってしまうのかも。」
「弱気だね。どうかしたのかい?」

の動きが一瞬止まった。

「別に、なにもないよ。」
「なら、何故泣いているんだい。」
「泣いてない。」
「そうかい?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」

沈黙が続く。が口を閉ざしてしまっては何を言っても無駄だ。
気にはなるものの追求をやめる。
風が吹き、木々が揺れ、雲が流れる。




どれくらいそうしていただろうか。
が立ち上がり、寄せられていた背は重みがなくなった。
ずっと座っていたため腰にきたのだろう、伸びをするが感じられた。

「ねー」

上から落ちてくる声を聞きながら、私も立ち上がる。

「あのね。」

立ち上がろうとしたものの、が抱きついてきたため結局また、地面に腰を掛けた。

「人は、人はいつか死んでしまうのね。」
「あぁ。」
「武官のあなたに、影の私。どちらが先に死んでも可笑しくないわ。」
「あぁ。」

私は武官で、は藍家の影。二人とも死を背にして生きている。
殺すか、殺されるか。二つに一つ。
どちらが先に死ぬのかなんて予想もつかない。

「私は楸瑛のこと好きよ。」
「私もだよ。愛しているよ。」

表向きは自分の妻を演じているに呟く。
と楸瑛は表向きは夫婦だが、実際のところ夫婦でもなければ、恋人でもない。
しかし、『愛している』この言葉には嘘も偽りもなかった。

「でもね。私は影だから、」

が深く息を吐き、息を吸い込む。
緊張が走った。とんでもない事を言われそうで。

「私が先に死んだら、今度は可愛い普通の奥さんもらうんだよ。」

絶対、とは念押しする。
無理だと言いたくても、私はからのお願いには弱いのはも知っていることだ。

「あぁ、考えておくよ。」

だからこれが私の精一杯の抵抗だった。

「うん。ありがとう。」

私の背を離れ、邸へと足を運ぶの後姿を見ながら言った。

、あまり早く逝かないでほしい。」

私の言葉に、え?とが振り返った。
今日、初めて私との眼があう。
やはり、泣いていたのだろう、目が少し赤かった。

「そうね…考えておくわ。」

哀しそうに笑う。
今にも消えてしまいそうな微笑だったが、近づいて抱きしめるとそこに確かにはいた。

「クスクス。どうしたのよ楸瑛。」

突然の行動に、彼女は驚きながら笑った。
らしくない。分かってはいても、止められなかった。

「ねぇ、本音を言えばね。私だけを愛して欲しいわ。」
「あぁ。」
「ごめんね、変なこといって。大丈夫、楸瑛より早く死んだりしないから。」

優しい声が聞こえて、安心した。