好きになっていく自分を止めることなんて出来ない。
好きになりすぎて自分でも止められない。
なんでこんなに好きなんだろう。
私は、本当にもう駄目かもしれない。


好きすぎて。。。



「姉様。姉様ったら!」
妹に呼ばれていたのに肩を揺さ振られるまで、全然気が付かなかった。
「あら、なに?秀麗。」
「『あら、なに?秀麗。』じゃないわよ。姉様ったら…具合でも悪いの?」
「違うわよ。もう秋だなーって思ったらちょっとね。」
「もぅ。心配させないでよ。」
「ごめんなさいね。ところで秀麗、何かあったの?」
「あのね。私、明日から帰ってこられそうになくって、静蘭も忙しいらしくって、父様もこもりがちだし…」
「仕方ないわね。数日は胡蝶姉さんのところに行っておくわ。」
「ごめんなさい。姉様。」
「誤ることないわよ。お仕事なのだから仕方がないわ。」
「うん。そうだけど・・・」
「私の事より自分の心配をしなさい。無理をしては駄目よ。」
「わかってる。朝がくる前に眠ること、でしょ?」
「そうよ。絶対に、ですよ。」
「うん。じゃー姉様、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。秀麗。」
室からでていく妹を見送るとまた一人、物思いにふける。

あの人と会ったのはいつだったのかしら、そう確か妹の秀麗が貴妃をやめた後だ。
夕食の材料と共に3日に1度の割合で訪れた。
最初は何とも思っていなかったのに、否、もしかしたら一目で恋に落ちていたのかもしれない。
私たち姉妹はどうもそういう方面には疎いらしく、私が自覚したのもつい最近。
気が付いときには手遅れだった。
秀麗は官吏として立派にやっており、3日に1度の食事会もだんだんと姿を消していった。
私とあの人を結ぶものなんてなくなって、あの人は私のことを秀麗の姉としか覚えていないだろう。
それでも私の気持ちは止まらなかった。


翌日、私は花街に足を運んだ。
本当は一人で家に居るつもりだったのだが、秀麗も静蘭も私が出掛けるまで仕事に行かないし、更にはわざわざ送り届けようとしていたので、家を出てコウガロウに向かった。
コウ娥楼に入ると胡蝶姉さんが出迎えてくれた。

「胡蝶姉さん。3日間お願いします。」
「いいんだよ。私とちゃんの仲じゃないか。」
「そぅ、入ってくださる嬉しいです。さぁ、何をすればいいですか?」
「そうだねぇー。髪でも結ってくれるかい?」
「はい。」

仕事に追われているときはあの人の事を忘れられた。
他に神経を使うからだろう、でも、知らず知らずのうちに王宮の方へ目を向けて、時にはフラフラと足を運ぶこともあった。

「悩みでもあるのかい?」
「えっ?」
「さっきから手が止まったままだからね。」
「あ!ごめんなさい。」
「誤ることはないよ。で、どうかしたのかい?」
「いえ、なにも。」
「何もないって顔じゃーないね。この胡蝶に話せないことなのかい?」
「…本当に胡蝶姉さんは上手いや。」
「当たり前だろう。ちゃんのことは誰よりも知っているからね。」
「うん。………好きで、好きすぎて、どうしようもなくって。止まらなくって。」
「一人で悩んだんだね。」
「胡蝶姉さん。私、わた、しっ。」
ポロポロと涙が溢れていく。
苦しい苦しい。こんなに苦しくなる程、何故好きになったのだろう。
「会いに行かないのかい?」
頭を横にふる。
「行けない。行ったら、駄目だもの。」

そう、わかってる。会いに行けないことが。行ったら駄目だということが。
だって、だってあの人は、相反する家の人。紅が恋して良い相手ではない。

「憎いねー。」
「へっ?」
「こんなにちゃんを一杯にさせるなんて、妬けるねー。」
「こ、胡蝶姉さん!もぅ。」

こっちは真剣なのに!とブスッと膨れて顔を背ける。

ちゃん。」
「何ですか?」
「家なんて問題じゃないよ。考えても御覧。秀麗ちゃんは応援してくれるだろうし、静蘭は即刻首を絞めに行きそうだし、邵可殿も家の心配はしなくても良いんだよ。って言ってくれるだろう。」
「そう、ですね。」
「花街に来たらこの胡蝶が追い出してくれるよ。」
「胡蝶姉さん…そこまでしなくても。」
「何言ってるんだい。ちゃんを私から奪ったんだ、これくらいは覚悟してもらわなきゃね。」
「もぅ。」

クスクスと笑いながらもう一度胡蝶の髪を結い上げる。

「さぁ出来ました。」
「ありがとう。」
「お礼を言うのは私の方です。私、頑張ります。」
「応援するよ。辛くなったら直ぐに来るんだよ。」
「はい。」

その返事を聞いた胡蝶は部屋を出る。
そして、胡蝶を見送ったは窓から屋根へ登ると、持ってきた二胡を弾き始める。
王宮の方を見ながら、少しでも、今だけでも好きでいさせてくださいと願いを込めて。


曲が終わり空を仰いだ。
するとパチパチと後方から拍手が聞こえ振り向けば、そこには会いたかった人の姿が。
「楸瑛様。」
「お久しぶりです、殿。」
「えぇ、お久しぶりです。あの、何故、ここへ?」
「呼ばれたような気がしたので。」
「………。」
殿?」

黙り込んだを心配し身を屈める。

「楸瑛様。」
ポツリと蚊の泣くような声で呼ばれる。
「なんだい。」
「好きです。私、楸瑛様のこと好きです。」
殿!!」
「見返りはいりません。だから…これからも好きでいていいですか?」

顔をしっかり上げ楸瑛を見据えたの声は、夜の闇に溶けて、の瞳に捕えられた楸瑛を尻目に自身も闇に溶けていった。