「楸瑛様。お帰りなさいませ。」
「。久しぶりだね。いつ貴楊へ?」
「つい先程でございます。」
「そぅ。ところで龍蓮の姿が見当たらないが。」
「秀麗様のところへ出掛けてくると仰っていました。」
「は行かなかったのかい?」
「私は楸瑛様にご挨拶をと思いまして。」
「律儀だねー今も昔も。」
「それはありがとうございます。」
「ついでに昔みたいに名前で呼んでくれると嬉しいのだけれど…。」
「ふざけないで下さい。主人を呼び捨てに出来るわけないじゃないですか。」
「それは残念だね。」
「・・・・・。」
「ん?どうかしたかい?」
じっとこちらを見て視線を放さないに問い掛ける。
しかし彼女の答えはフーッと溜め息だけだった。
「なんだい。そんな溜め息を吐いて。」
そんな自分の軽口に気分を害したのかこちらを見る視線はキッと厳しいものになった。
「楸瑛さま。貴方が左林軍将軍の座にいることはちゃんと知っています。」
「なにを言い出すんだい。」
「黙って聞きなさい。」
彼女に一喝されて口を閉ざした。
「武官で他人より体力も精神力も優れています。でも、」
はあえてそこで一呼吸置く。
「でも、無理をしてはいけないわ。なんで一人で抱え込むのかしら?」
はそう言うとまた一つ溜め息を吐いた。
「龍蓮とそっくり。・・・藍家の血なのかしら?」
かちゃりと音を立てて目の前の卓に茶器が置かれた。
「お座りください。」
に促され向かいの席につく。
「どうぞ。」
「ありがとう。・・・美味しいね。」
「お褒めに頂けて光栄です。」
「いつまでいるんだ。」
「さぁ、龍蓮に聞いてください。多くて3日くらいじゃないですか?」
「そうか。」
やや気落ちした楸瑛の声にが眉をひそめる。
「具合でも悪いのですか?お休みになりますか?」
「一緒に寝てくれるかい?」
「えぇ、構いませんよ。添い寝で宜しければ。」
「。愚兄と一緒に寝ると子が出来るぞ。」
「「龍蓮!」」
「まったく、何処から入ってきたの?こんなに葉をつけて…。」
藍家に植えられている木々の葉を頭にひっつけてやって来た龍蓮。
一体どうやったらあんな頭になるんだか。
「心の友の家で食べた菜は見事だった。」
「それはよかったですね。」
「心の友もに会いたがっていたぞ。愚兄などほっておいて一緒に行けばよかったのだ。」
なにやら頼んでもいないのに自分のせいにされている。
「いいのです。私が決めたのですから。それより、どうされました?」
「ん!、外だ。風流を見に行こう。」
そう言ってを引っ張って窓から外へ出ていった。
それから何刻かたった夜更けにが部屋へ訪れた。
「起こしてしまったかしら。」
「いや、起きていたよ。何か用かい?」
「えぇ、あのね。」
入り口から動かないの手を引き招き入れる。そして灯りをつける。
「これから私が言うことは家人ではない、ただのが言うことよ。だから私が出って行ったら忘れてよね。」
「あぁ。わかった。」
「楸瑛、無理をしないで。絳攸殿も主上もいらっしゃるじゃない。ガス抜きしなさい。あんまりして欲しくないけど妓楼に通うのも許すわ。」
そこで、は一息吐いた。
「・・・・・好きよ。楸瑛、大好き。」
思いがけない言葉だった。
はそのまま後ろを振り向き室から立ち去る。
まいった。
先手を打たれてしまった。
もちろん、より前に「好きだ。」と言った事もある。
でも、それは戯言。「ただいま。」「おかえり。」や「ありがとう。」「どういたしまして。」なんかと一緒。
今から追い掛けて、抱き締めて、愛の言葉をつぶやいて、
そして―――…‥・
でも体は動かない。
彼女は言った。忘れろと・・・。
今更、本音を出したところで私はあなたに振り向かない。
無駄なことを言うな。
本当にまいったよ。
交われないスパイラル