愛してる?冗談じゃないわ。
「無様な格好ね。朔洵。」
「君か、。」
「忠告したはずよ。あの子は貴方のものにならないって。」
一時、若様の朔洵に側仕えしていた彼女のことを思い出す。
州牧の一人である彼女はこの茶家のどこかでやるべきことをやっている。
ゲホッと咳き込み血を吐く朔洵に冷めた視線を送る。
「もう一つ忠告したはずよね。」
「あぁ。家人に手を出すな、だったよね。」
「あら、覚えていたの。…覚えていたのにその様とは。」
フンと鼻を鳴らし冷笑する口元を扇で隠す。
「君も暇だねー。逃げなくていいのかい?」
「逃げる必要がないわ。」
「ふーん。」
「克洵が跡を継ぐそうよ。」
「そうか。…嫌いだったよ。」
「知っていたわ。でも貴方がそうさせたのよ。」
「そうだったかな?ッゲホ。」
また一つ咳き込み床に血が飛び散る。
「君は、何故ここに来たんだい?」
「貴方の死に様でも見ようかと思いまして。」
「それは、お気に召したかな?」
「えぇ。とても。」
にこりと笑ったを見ていたら自然と笑いがこみ上げてきた。
「くすくす。本当に嫌な奴だね。」
「貴方ほどじゃなくてよ。」
「特別だったんだ。」
ポツリと呟かれた言葉。
「あらそう。じゃー私はこれで。」
「あぁ、そうだね。・・・・・君は、は私を愛していたのかい?」
彼女が特別だと気付いた時から考えていた茶家に仕える姫のことを。
退屈な茶家にいるときも、この姫が、姫がいたから家出なんてしなかった。
満足とまではいかなくても、退屈ではなかったから。
刺激が足りなくて、寝込みを襲った時から続いた関係でもあった。
どれだけ酷いことをしようともは泣かなかった。
怒りもしなかった。
ただ、平然と嫌味で応酬してくるだけだった。
もしかしたら、がここも出付き合ってくれたのも自分が特別だったのではないかと自惚れてみた。
「愛してる?冗談じゃないわ。」
そんな期待はバッサリと斬られる。
「何故私が貴方を愛さなくてはいけないの。」
「フフフ、そうだね。うん、そうだ。」
「くだらないこと考えないで、神様にお願いでもしたら?」
「天国に行かせてくださいって?」
「地獄に決まってるでしょ。」
「酷いなー。…でも楽しそうだね。」
「えぇ、だからさっさとくたばりなさい。」
それだけ言うとはくるりと向きをかえ、もと来た道を戻る。
遠く、小さくなっていく彼女の背中を見ながら、くだらないことを考えていた。
私はを、は私を、 愛していたのかな?
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お題:『愛してる?冗談じゃないぜ』
彩雲国 茶 朔洵