貴様…名を名乗れ!


「貴様!名を名乗れ!!」
「・・・なんの遊びだ。それは。」
「火村ったらノリ悪いなーもう。」

ブスッと頬を膨らませる彼女を尻目に溜息をつく。

「これが普通の対応だ。」
「えーそんなのつまらない。」

今度はブーイング。



「と、勝手に怒って帰っていた。」
「なんやそれ。」
「相当怒っているらしい。」

その後からここ数日、連絡もないし、とれない。
毎日迷惑なくらい下宿にも来ていたくせにプッツリと途絶えた。

「当たり前やないか!なんやその返しは!関西人ならノラんなあかん!」

・・・ここにもいた。火村はまた溜息をつく。

「あいにく俺は関西人になった覚えはない。」
「冷たい奴やなーそんなことしてると愛想つかれるでー。」
「・・・・・。」
「なんや気難しい顔しよって。」
「いや、なんでもない。」

そういった火村は思っていた以上に落ち込んでいて、本日2箱目になるキャメルの封を切った。

「どうせ火村のことや、自分から連絡してへんのやろ。」
「あぁ。」
「一度会いに行ってみたらどうや?確か今日は休みやったはずや。」
「あぁ。・・・なんでお前がのスケジュールを知ってるんだ。」
「昨日、偶然会ってなーそれで。」

そのまま火村は黙り込んだ。
私は火村に余計なことを言ったかと思い、そっと火村に目をやると下唇をなぞりながら何か考え込んでいる。

「おい、出かけてくる。帰る時には鍵をしろよ。」

放り投げられたのは研究室の鍵。そのまま火村は振り返りもせず出て行った。
私は1人、火村の研究室で冷めたコーヒーに口をつけた。

きっと火村はの元へ。

その後の火村の行動は、明後日のからの電話で知る。


「貴様!・・・名を名乗れ!」
「お前の恋人だ。」



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お題:『貴様…名を名乗れ!』
   ミステリ 火村 英生