犬も猫も喰わぬ…


私は数年前に拾われた猫である。
親、兄弟と別れ、行き場なかった私はある日、行き倒れになっている人間を見つけた。
最初は何かのワナかと思ったが、人間は動く気配もなくただ倒れ続けていた。
観察を止め、のそりと体を動かし人間へと近づくとそのまま頬を舐めてみた。
すると、どうだろう。人間が生き返った。
イヤ、この場合目覚めたのである。
そのまま起き上がった人間は私を掴むと、走りながら何処かへ行った。

立派な家。

そこへ連れてこられた私は、心配そうな顔をして出てきたもう一人の人間にこう言った。


「命の恩人。違った、恩猫なの。飼ってもいいでしょ?」

と、そして今に至る。
行き倒れていた人間は藍。私の主人である。
もう一人の人間は藍楸瑛。主人の夫である。



「お帰りなさい。楸瑛。」
「あぁ、ただいま。」
「ニャー」

私も一緒にお出迎え。
別に来たくて来てるんじゃない。主人が私を抱いたまま来ているから仕方ないのだ。
それなのに、この男。藍楸瑛は私を睨む。
大事な奥さんを猫に取られたのが悔しくて、悔しくて仕方がないのだ。

「楸瑛ったらどうかしたの?」
「いいや、なんでもないよ。」
「そう?夕餉にしましょう。今日は私が作ったのよ。」
「私のために?」
「・・・決まっているでしょ。」

そっぽを向き、頬を染め上げながら言う主人。藍楸瑛の顔は緩んでいる。

「ほら、楸瑛。」

何も言わない照れているのだろう。主人は一足早く食卓へつく。
そこでようやく私は解放され、夕餉にありついた。
藍楸瑛も遅れながら食卓へつく。楽しく談笑しながらの食事、主人も藍楸瑛も嬉しそうだ。
主人はこの夕餉の準備を手伝おうとする家人を追い出し、時間を掛けて作ったんだ。
動物である私は厨房に入れてもらえず、入り口で主人を観察していた。
今日の夕餉は藍楸瑛の好きなものばかり、あいつは気付いているだろうか?
猫の私に嫉妬するような男だが勘は鋭い奴だ。なんでも主上付きで将軍の座にいるのだからな。
まぁ、これは主人の受け売りだ。

「楸瑛、どうかしら?」
「うん、おいしいよ。」
「そう?」
「あぁ、どれも私の好きなものばかりだしね。」
「…それは、たまたまよ。」
「そうかい?」
「・・・明日は?早いの?」
「明日はね、休みだよ。」
「え?公休日でもないのに・・・」
「主上がね?」

藍楸瑛が浮かべるのは不敵な笑み。
大方、主上と休みをかけて勝負でもしたのだろう。

「そう。」
はどうなんだい?」
「何も予定してないわ。」
「なら、明日は二人で寝坊するかい?」
「あら、も一緒よ?」
「・・・・・。」

藍楸瑛がピタリと動きを止める。

「・・・・・。冗談よ。猫に嫉妬しないでよね。」
「冗談でもそんなこと言わないでくれよ。それに、が仕事に嫉妬しているのと同じだよ。」
「!」

意地悪な笑みを浮かべながら言ってくる楸瑛をキッと睨む。

「そんなこと言うんだ。・・・、いらっしゃい。」

急に呼ばれた私は、主人に近づくと抱き上げられる。
主人の方から藍楸瑛を見ると苦笑しながらこちらを見ていた。


今日も主人夫婦は平和だ。